行きかふ人も又

2010/08/10(火)22:35

【赤い航路(LUNES DE FIEL)】 1992年 逃れられない愛の情念

多国合作映画(35)

イギリス人夫婦が、豪華客船上で知り合った、奇怪な車イスの作家と美しい妻。作家が語る異常な夫婦関係の物語に、イギリス人夫婦は翻弄されていく―――――。  ポランスキー監督と知らなければ、ばかばかしくて途中で見るのをやめていたかもしれなかった。しょうもないと見せかけて、揺れ動く4人の心と行動に、徐々にのめり込ませていく異色なエロチックサスペンス。途中で断念しそうになっても、がんばって見続けるうち、意外にもおもしろかったーということになるのかもしれない。(ならないかもしれないよ) イギリス人夫婦の夫で精神科医のナイジェル(グラント)は、船上で偶然知り合った、車イスの作家オスカー(コヨーテ)から、自分の話をぜひ聞いてくれと頼まれ、彼の客室を訪れるようになる。 オスカーが語るのは、若い美貌の妻ミミ(セニエ)との物語。ふたりの出会いからはじまる愛欲の日々は、破綻をむかえ、過激なSM行為にはしり、やがて激情の末の残酷な結末へと様変わりしていく・・・・。 紳士然としているナイジェルが、奇妙な性生活に諍いがたく興味をそそられて、ミミに惹かれて行く様を絶妙な心理描写で描いていく。 アメリカ人のオスカー、フランス人のミミ、イギリス人の夫婦。何気に国柄が表れてくるのがおもしろい。豪華客船が向かうのはイスタンブール、途中インドに寄港するらしく、船長はインド人だし、ポランスキー監督はポーランド人という、かなりインターナショナルな作品。 皮肉交じりの多国籍映画は、男と女の極限下のエロティシズムを描いた、文芸大作の映像化だけに留まらず、異様な後味と不気味な心のざわつきを残すのだった。 作家とはいえ、まだ一冊も本を出したことのないオスカーが書くのは三文恋愛小説。遺産で生活しながら、放蕩の限りを尽くす彼に、見染められたミミはきっと不幸。 どうみても尻軽女に見えるミミだけれど、むかしは純真で、彼のことを本気で愛しただけだった、、、。ミミの激しい愛は、やがてオスカーにとって邪魔となり、残酷に痛めつけらることになるのだが、運命はさらに変わる。 ミミの復讐劇がはじまるのだ――――。 オスカーの告白に、か弱く揺れ動く、ナイジェルと妻フィオナ(トーマス)の関係が危うい。ナイジェルはミミに惹かれ、そのことを妻は知っている。 ナイジェルを誘惑するミミは、どう見ても悪女、とても純真さの片鱗さえ留めていない彼女が悲しいが、すっかり悪女になったのは、オスカーのせいなのだから悲惨だ。 とはいえ、この物語の一番のつわものはじつはフィオナなのだ。夫さえしらなかった一面を見たとき、誰もが驚くに違いない。 びっくりするようなオチの悲劇に驚きながら、当然のようにも思えるデッドエンドが突然にやってくる。 愛を確かめるために豪華客船に乗りこんだはずのイギリス人夫婦が、この先どうなるのか、考えるだけでも憂鬱な絶妙なラストがよかった。 †   †   †   † 監督・製作/ ロマン・ポランスキー 原作/ パスカル・ブルックナー 脚本/ ロマン・ポランスキー  ジェラール・ブラッシュ  ジョン・ブラウンジョン 撮影/ トニーノ・デリ・コリ 音楽/ ヴァンゲリス 出演/ ピーター・コヨーテ  エマニュエル・セニエ  ヒュー・グラント クリスティン・スコット・トーマス  ヴィクター・バナルジー (カラー/140分/フランス=イギリス)

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