行きかふ人も又

2010/10/24(日)09:22

【野ばら】 1957年 ハンガリー動乱を逃れウィーン少年合唱団員になった、孤児トニーの物語

ドイツ映画(15)

 隅から隅まで、清らかな美しさで満ちていて、心が洗われるとはこういうことをいうのでしょう。 かの有名なウェルナー作曲の表題曲『野ばら』、シューベルトの『アヴェ・マリア』、モーツァルトの名曲を、少年合唱団の美しい歌声が高らかに歌い上げる音楽映画。 『野ばら』の原詩は、もともとゲーテによるものだそうで、その歌詞のやんごとない清らかさに背筋までピンとするようです。  ハンガリー動乱を逃れオーストリアに辿りついた孤児トニーは、収容所行きのバスに乗り遅れて困っているところを、ドナウ河の船長だったというブリュメル老人に救けられ、意気投合したふたりは、一緒に暮らすようになります。 ある日、礼拝にでかけた教会で、ウィーン少年合唱団の讃美歌に心奪われたトニーは、合唱団入りを夢見るようになるのでした。彼に音楽の才能があることを知ったブリュメル老人は、少年の幸福のために、彼を合唱団に入れる決心をします。 トニーの未来を想い、別れを選ぶブリュメル老人をはじめ、両親のいないトニーを母親のように愛してくれる寮母マリアさんなど、みんながみんな善良で心根のやさしさが温かい。合唱団長、音楽の先生にいたるまで、いい人ばかりです。安心しきってこころを委ねられる。 少年合唱団の歌声がお好きな方はきっと多いはず。そちらの側面も楽しめる一方で、トニーの成長記、マリアさんやブリュメル老人との絆物語としても、十分見ごたえある佳作。 後半、舞台はチロルの山荘に移されます。主旋律を射止めたトニーに嫉妬する仲間が現れたり、窃盗事件が起こったり、、、順風だった前半から、にわかに波瀾が続くのだけれど、純粋な心根の人々が繰り広げる物語に、サッド・エンドなんてありえない。 とにかく、後半のチロル、アルペンの風景が爽やかで、ほのぼのと微笑ましく、歌声もハートも映像も美しいのだから文句のつけどころなし。 当時、西ドイツは、2年前に主権を完全に復活させたばかりだった。まさに平和な時代に生まれた映画という感じがする。 †   †   † 監督/ マックス・ノイフェルト 脚本/ マックス・ノイフェルト  カール・ライター 音楽/ ハインツ・ノイブラント 出演/ ミヒャエル・アンデ  パウル・ヘルビガー  エリノア・イェンセン (カラー/西ドイツ/95分/DER SCHONSTE TAG MEINES LEBENS)

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