行きかふ人も又

2011/07/20(水)20:39

【さらば夏の光】 1968年 幻のカテドラルに導かれて

日本映画(141)

 吉田喜重監督が日本航空と提携して製作した作品。男女の会話劇、繰り返される独白、原爆というキーワード。否応なく『二十四時間の情事』を思い出す。 当時、日本航空はアジア初の"世界一周路線"を実現したばかり。宣伝も兼ねた旅情を誘う作品といっていいのだろうか。。訪れる都市は、ポルトガル、スペイン、フランス、スウェーデン、デンマーク、オランダ、それにイタリア。ヨーロッパ映画のような情緒あふれるロードムービーとなっている。主演俳優2人と6人のスタッフのみで、旅しながら撮影されたという。  学生の頃、長崎の博物館で見た写生画のカテドラルに心を奪われ、その原型を探しに旅に出た川村(横内)。辿りついたリスボンで、買い付けの仕事をしている直子(岡田)と出会い、恋に落ちる。しかし彼女にはアメリカ人の夫と、そして、消し去った過去があった――。 故郷を捨てた女と、旅先で恋に落ちた男。詩的な会話が、異国情緒漂うなかで繰り広げられていく。監督の妻、岡田茉莉子の美しさが、ひと際きわ立っていた。何度別れても、幾つもの国々で、おかしなくらいに再会を重ねるふたり。ありえない――そう思いながらも、気がつくと、旅先の風景に心奪われ心絆され。ストーリーは二の次の、非現実を漂うロードムービーが、いいなと思う。  "長崎"。この街で直子は、母と弟を失った。終戦の夏から、帰る故郷をなくしたと信じる直子の悲痛な嘆きは、川村の一途な想いを受けても癒すことはできなかった。すでに冷めている夫との別離を決意したのも、新しい愛のためじゃなく、かりそめの夫婦関係から自分を自由にしただけ、、さらに深まるだろう彼女の孤独が、強さと美しさに彩られながら深まっていく。凛としたカッコいい直子こそが、本作の主人公。ひと夏の旅は、静かに終わりを告げていく。 戦争と原爆にしっかり焦点をあてていた『二十四時間の情事』とは、根本は違っているのでくらべまい。どちらも好きな作品だと思う。どこかへ旅したくなること必至。それは魅力な、歴史ある建造物と街並が目を楽しませてくれるから。   監督/ 吉田喜重 脚本/ 山田正弘  長谷川竜生  吉田喜重 音楽/ 一柳慧 出演/ 岡田茉莉子  横内正 (カラー/96min)  

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