行きかふ人も又

2011/08/21(日)21:17

【少女~an adolescent】 2001年 二人なら飛べる

日本映画(141)

  瓦屋根の古い家屋が建ち並ぶ小さな町。警官の友川(奥田)は、平和なこの街で荒んだ毎日を送っていた。そんなある日、喫茶店で知り合った少女に誘われホテルへいく。やがてふたりは本気で惹かれあい友川の退廃した人生も変わり始めるのだが―――。  先日の『風の外側』が記憶に新しい、奥田瑛二による監督デビュー作。原作は、中年男と少女の純愛を描いた、連城三紀彦の短編小説。なんとなく捨てておけない作品だった。 フランス映画を意識した音楽や演出からは、ふしぎな情緒が漂う。昭和の匂いがぷんぷんするのに、どこかヨーロッパチックだ。北野映画を思い出すアートを取り入れた画面、監督自らが出演する奇妙な間、外国で評価されるところもちょっと似ている気がする。それでも中年男と少女の純愛から目を逸らせなかったのは、陽子役の小沢まゆの体当たり演技がとても好きだったからだと思う。 陽子の母は放蕩の果てに再婚して家を出た、兄は知的障害者、祖父は彫物師。自分は学業の傍ら、まだ15歳で納棺師について死に化粧を学んでいる。とてもまともじゃない環境で育った陽子は当然大人びて、中学校でも浮いた存在で友だちもいない。そんな彼女がSOSを発し近づいたのが、背にじいちゃんの彫った刺青<比翼の鳥>が羽ばたく町の警官・友川だった――。   すべてを知って近づいた陽子の強い意志と、少女と本気で生き直したいと思いはじめる友川の真剣な気持が、行けばゆくほど切なくなる。障害を持つ兄のエピソードや、自殺した父親の記憶、友川と母の腐れ縁・・・・・ユーモアを交えながらも、小さな町に淀んだ過去が重苦しくのしかかる。情けない友川よりも、よほど真摯に現実を見据えて、陽子は生きている。 写真のとおり、陽子は背に刺青を入れるのだけれど、これって『蛇にピアス』よりずっとヘビーだ。彫物師のじいちゃんが、今生の最後の仕事として陽子の背に刺青を彫らせほしい・・・・・・そう哀願するのだった。「そんなことしたらわたしお嫁にいけないよ ! 学校の検診だって温泉だって困るよ !」現実的に当然断った陽子だけれど、紆余曲折あって結局彫ってしまうのだった。友川の背に雄だけで羽ばたく鳥が両の翼と目を与えられるように―――。 小沢まゆや奥田瑛二は、きっと『蛇にピアス』を見て甘ちょろいと思ったことだろう。じいちゃんの仕事道具はまだ電化されていない手作業、半端なく痛そうなのだ。小沢まゆの苦悶の表情がたまらなくいい。奥田作品のエロスはこんなところにも表れてくる。痛みに堪えて、やっと手に入れた<比翼の鳥>。フランス映画のようなラストシーンに、ふたりの幸せを素直に喜べる爽やかなハッピーエンド。あからさまに思えるオブジェには目をつむってしまおう。原作は別物のようだけれど、読んでみたいなーと思った。   †    †    † 監督・製作/ 奥田瑛二 原作/ 連城三紀彦 『少女』 脚本/ 成島出  真辺克彦 出演/ 奥田瑛二  小沢まゆ  小路晃 (カラー/132min)

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