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家曜日~うちようび~

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2019.02.25
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人を死ぬほどびっくりさせたことがあります。
​​
振りかえれば、故意であれ過失であれ、よろしくない部類で人を驚かすことの多い人生であったなあ、
なんつって、我ながら、そこはかとなく思ったりする今日この頃なのだけれど、
そのなかでも「いやいや、あんた、そこまでびっくりするかね」と、驚かせた相手に逆に度肝を抜かれたってぇ話。

それは、今から15年前、2004年3月20日の出来事。
今の会社に入社したばかりで、まだペーペーの職人だった僕は、その日、ある古い戸建住宅のリフォーム工事をしていた。
そのお宅は、高さ2メートルの擁壁沿いギリギリに建物が建っていて、建物と擁壁の間が60センチ程しかなかった。
工事はキッチンの改修がメインで、僕達は宅内から屋外へ出た排水を水路に放流する為、
人がギリギリ通れる間を、恐る恐る、注意しながら管材を運び、
足場の悪い2メートル下の水路際に脚立をたてて、配管を擁壁に固定したりした。

事故も怪我もなく無事工事を終え、会社に帰り、タイムカードを押して退勤しかけた僕に、当時の僕の上司が言った。
「おい、お前、帰りがけに今日の現場に立ち寄って、トイレの便器の品番を控えてこい。」
どうやら、便器の調子が悪いので、お客様に修理を依頼されたのだが、品番を控えてくるのを忘れたらしい。
「お前の家、あっち方面だろ? 帰るついでに、ちょっと寄って、品番控えてこい。」
断る理由もないので「へぇ、へぇ、わかりやしたぁ。」なんつって、帰宅途中に昼の現場へ寄り道することに。

午後7時頃、昼間工事をしたそのお宅に立ち寄った。
元請の建築屋さんが玄関を工事中で、インターホンがなかった。
玄関先で叫ぶ。ごめんくださーい!・・・あれ?返事がない。
ごめんくださーい!ごめんくださーい!・・・お留守かな?
耳をすますと、キッチンの方で、テレビの音がする、あ、ご主人の笑い声も聞こえるぞ。
テレビに夢中なのかな、どうしよう。
しょうがない、昼間工事をしたキッチンの方へまわって声を掛けよう。
僕は、闇の中を、2メートルの擁壁沿いの、人がギリギリ通れる建物との隙間を、
城に忍び込む忍者のように、壁づたいに蟹歩きで歩いた。

キッチンにある小窓から、明るい室内を覗くと、リビングが見えた。
窓の外の僕の真向かいに小さなテーブルがあって、そこでご主人が一人で夕食を食べていた。奥さんがいない。風呂かな?
ご主人は、茶碗の飯をかきこみながら、爆音でテレビを見て、大笑いしていた。
後で知ったのだが、その日、ドリフターズのいかりや長介氏がお亡くなりになり、テレビは各局、いかりやさんの追憶番組を放送していた。
ご主人は「ドリフ大爆笑」を見て、文字通り、大爆笑していた。

ごめんくださーい!・・・気が付かねえ。
窓を叩く。コンコンコン・・・気が付かねえ。
・・・ったく、困ったな。僕は崖っぷちで立ち尽くし、一瞬不安になった。
・・・まあ、いっか、そのうち気が付くっちゅーの。
すぐそう思い直して、ご主人がこちらに気が付くまで、気長に待つことにした。
暇だから、ご主人が夢中で見ているドリフのコントを、僕も窓にしがみつきながら見た。
僕は、崖っぷちの小窓から、人の家のテレビを覗き込み、ドリフのコントをしばらく見ていた。

あんた、神様かい?

とんでもねえ、あたしゃ、神様だよ。

志村と加藤が軽快な掛け合いをするコントの最中、やっと、ご主人が僕に気が付いた。

味噌汁をすすりながら何気に窓を見たご主人と、

漆黒の闇夜、人がいるはずない崖っぷち、小窓にしがみつき、ドリフを見て笑う僕との、

視線が、ばっちり、合った。

​​ぎゃあああ!

​ご主人、B級ホラー映画のように分かりやすい悲鳴をお上げになられた。

そして、味噌汁を手にしたまま、椅子ごと後ろにぶっ倒れた。

ご主人、倒れる途中、無意識に椅子の後ろ足二本でしばらくバランスをとって、なかなか倒れなかった。

ご主人、足をバタバタさせ、絶妙なバランス感覚を見せた。

宙を舞う味噌汁の、滞空時間、長い長い。

ゆっくりと宙を舞う具材から、その晩は、ネギと豆腐の味噌汁だと判別出来たもん。

ご主人、まさにドリフのコントばりに豪快にぶっ倒れて、僕の視界から消えた後も、

テーブルの下から、うわああ、あわわわわわああ、と、ボーダーラインぎりっきりのうめき声を漏らし続けている。

・・・・やっべえ、死ぬほどびっくりさせちゃった。

ご主人、テーブルの上にひょこっと顔を出す。顔面蒼白、恐怖におののいている。

僕は、大至急ご主人の警戒心を解かねばと、漆黒の闇の中から、これでもかと爽やかな、全身全霊、渾身の笑みを見せた。

えへ。 えへへぇ~。

ぎゃあああ!

あれ? また、びっくりしとる。 何でじゃ? 何がいかんのじゃ?

僕は慌てて、自分の顔を指差し、あごが外れるほど大きく口を動かしながら、

ひ、る、の、す、い、ど、う、や、で、す。

ひ、る、の、す、い、ど、う、や、で、す。

ひ、る、の、す、い、ど、う、や、で、す。

と、窓ガラス越しに、サイレントで申し続け、ご主人の読唇術に期待した。

ご主人は、徐々に平常心を取り戻し始め、昼の水道屋の顔を思い出してくれた。

味噌汁でびしょ濡れ、頭に白ネギをのせたご主人が、ふらりふらりと僕に近寄り、がらりと窓を開けた。

僕 「どーもー、こんばんわー。」

ご主人 「・・・こ、こんばんわ。」

僕 「あのぉ~、僕ぅ~、便器の品番を調べに来ました!」

ご主人 「はあ?」

僕 「便器の!」

ご主人 「便器の・・・」

僕 「品番を!」

ご主人 「品番を・・・はあ・・・どうぞ、お上がりください。」

僕 「はーい! おじゃま致しまーす!」

ふと見ると、つけっぱなしのテレビでは、いかりや長介が「もしものコーナー」のオチ間際。

「・・・あのぉ、水道屋さん。」

長介、頭から水をかぶり、ずぶ濡れになって、カメラ目線。

「・・・あのぉ、すみませんが、玄関からお願いします。」

しれぇ~っと小窓から家に上がり込もうとする僕に、ご主人が言った。

「だめだこりゃ。」

続けざま、長介が、僕に、そう言った。


「メリーゴーラウンド」

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最終更新日  2019.02.26 07:06:13
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