そんな簡単な計算が出来なかった
現在三十歳前後の社員が、うちにも数人いる。少ないけどね、いるにはいるのです。 二十代半ばで途中入社してきた若者たち。実務経験は、5年~10年あたり。一人で現場をこなせるようになり、ぼちぼち自分が中心になって、現場で他の職人さんに指示を出す機会も増えてくる。 ぶっちゃけ、建設業界で働くこの時期の若者のなかには、増長をする者が多い。 増長。要するに、調子にの~る。 調子に乗る。要するに、お天狗にな~る。 うちの若い社員も漏れなく、現在絶賛お天狗の真っ最中である。 正直言って、若者たちの非常識で不遜な態度に、はらわたが煮えくり返り、こんのぉクソガキ、自分の語彙力の全てを駆使して、己の未熟さが身に染みるまで滾々とお説教をお見舞いしてやろうかしらん! と思うこともあるが、そこはほら、こういうご時世だからね、何とかハラなんつって訴えられちゃうからさ、ググっと堪えてますけどね。ギリギリのところっすけどね、時代っすね、しゃーないっすね。 そもそも、かつてはこの僕が、その非常識で不遜な若者の代表各でしたからね。 三十代前半の僕は、年配の監督や職人さんに突っかかってばかりいた。 あなたがたは、休憩ばかりしている。 あなたがたは、重労働を若者に押し付ける。 あなたがたは、体調を壊して病気ばかりする。 あなたがたは、ストレスを抱えて弱ってばかりいる。 あなたがたは、子供の行事や家庭サービスなどと言い訳をしては、すぐに有給休暇を取りたがる。 そして何より、あなたがたは楽ばかりしているのに、 こんなに頑張っていて、こんなに能力のある僕より給料がすこぶるよい。 僕は、それがどうしても納得できない。 ……ああ、恥ずかしい。穴があったら入りたい。 三十代の僕は、あと十年経てば、自分も四十代になるのだと言う、 そんな簡単な計算が出来なかった。 あと二十年経てば五十代、三十年経てば六十代になるのだと言う、 そんな小学生でも出来る簡単な足し算が出来なかったのだ。 自分も、やがては、老いる。 そんなちょっとした想像力が、悲しいほど欠落していた。 自分だけはずっと若いままの気がした。 自分だけは病気もぜず、自分だけは気力も衰えることなく、自分だけはいつまでたってもバリバリだと思っていた。 何の根拠もない自信に溢れていた。 言い換えれば、根拠なき自信以外、自分を支えるものが無かったのだ。 ……嘆かわしい。 若さゆえの過ちである。ごめんなさい。じゅうぶん反省していますので、どうぞ勘弁していただきたい。 な、な、な、なんつって。 四十代後半ともなれば、僕のような愚物であっても、ある程度俯瞰で人を見れるようになった気がする今日この頃でありんすが、 でも、さらに年上の諸先輩がたのように、非常識で不遜な若者を「若さゆえの麻疹みたいなものだ。いずれ彼らも分かってくれる」などと温かく見守る菩薩のような心までは、情けないかな、今のところ持ち合わせていないのである。 ガキども、マジ腹立つ! 真っ向から、とことんやったんぞ! と血眼になる衝動を禁じ得ない。とほほ。未熟者っす。 これも、四十代という若さゆえの過ちであろうか。 僕も、もう十年もすれば、諸先輩がたのように、ごく自然と菩薩のような心を持てるのであろうか。 う~ん、どうかなあ。自信ないなあ。にほんブログ村↑ポチッと一枚!にほんブログ村