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聖歌は生歌

聖歌は生歌

オルガン(略歴)

 
オ ル ガ ン ( 略 歴 )

 教会の楽器と言えば、ほとんどの人がオルガン、すなわちパイプオルガンを思い浮かべると思います。ヨーロッパの教会へ行けば、バッハはもちろん、それより100年以上古いオルガンも現役で活躍しており、聖歌や讃美歌の伴奏はもちろん、教会での奏楽、即興演奏などでも、オルガンは欠かせない楽器となっています。一方、日本では、パイプオルガンはまだまだ高価な楽器で、実際、安くても数千万円はしますし、メンテナンスの費用も馬鹿になりません。せっかく購入しても、十分に使いこなせる人がいなかったり、オルガニストはいても、変に弾いて壊してしまってはいけないので、十分に活用されていなかったり、といったこともまれではありません。
 それを補うように、発展著しいのが、電気オルガンです。現在では、日本でも10社近い電気オルガンメーカーがシェアーを競っています。電気オルガンの良い点は、近年発達した、コンピューターやデジタル録音によって、実際のパイプオルガンと変わらない音が再生できる点と、価格がパイプオルガンのおよそ十分の一(といっても最低で100万円代)で済むこと、さらに、メンテナンスが簡単なことでしょう。反面、技術の進歩で、10年前のものも旧式になってしまうことや、スピーカーの振動による発音は、どうしても機械の域を出ることができない、という点でしょう。
 ところで、最初にも書いたように、教会の楽器と言えば、ほとんどの人がオルガン、すなわちパイプオルガンを思い浮かべますが、教会でオルガンが使われるようになったのは、それほど古いものではありません。最も古い記録では、7世紀半ばにヴィタリアヌス教皇が賛歌を教えるためにオルガンを用いたとされていますが、オルガンが実際に多く作られるようになったのは9世紀になってからです。実は、それまで、教会ではオルガン邪教の楽器ということで使用が禁止されていて、教会の聖歌は、無伴奏=ア・カペラで歌われていました。ですから、ある意味でオルガンの使用は、ヨーロッパにおけるインカルチュレーションの一例ということができます。
 教会の典礼に取り入れられたオルガンは、瞬く間に教会の中での地位を確立して行きます。その、最大の理由は、他の楽器と違って大きな音が出ること、弦楽器のように音が減衰せず、人間の発声に近いことなどが挙げられます。ちなみに、この時代の弦楽器も管楽器も多くが木製で、現代の金属製の楽器のように大きな音は出ませんでした。このようにオルガンは、教会の楽器としての地位を不動のものにすると同時に、伴奏だけではなく、独奏楽器としても活躍します。15世紀頃になると、グレゴリオ聖歌の定旋律に対して、オルガンが即興をしたり、オルガンのヴェルセットが作られるようになります。これは、本来、二つの歌隊が交互に歌っていたマグニフィカトなどを、歌隊オルガンが交互に演奏するものです。これはまた、グレゴリオ聖歌の衰退を招く結果ともなったのです。これ以降、オルガンの発展に大きく寄与したのは、なんと言ってもルター派の礼拝でしょう。ルター派の礼拝では、礼拝の前後や聖餐式のときに、さまざまな曲が演奏されました。プレリュード、トッカータ、コラール・プレリュードなどです。その後、オルガンは、鍵盤もストップも増え、楽器も大きくなりました。曲も教会の礼拝や典礼からも独立したものが作られるようになりました。

 さて、最初に、日本にオルガンが入ってきたのは、いわゆるキリシタン時代で、このときのものは、小型オルガンでした。その後、明治に宣教が再開されてから日本に入ってきたのは、ほとんどがリードオルガン(ハルモニウム)でしたが、だんだんとパイプオルガンも導入されるようになりました。戦後になると、宣教師のかたがたの大きな努力で、さらに、大きなパイプオルガンも入るようになりました。その一方、音楽大学のオルガン教育は、キリスト教抜きの演奏主体で、肝心の基礎が抜けた感は否めません。その影響で、教会以外のホールにも大きなパイプオルガンが入るようになりましたが、選考者と楽器会社の癒着が指摘されたり、せっかく入れても、ほとんど使われずにつぶされるものもあるといったことも起きています。

 現在、カトリック教会は『典礼憲章』第120条で「パイプオルガンは、その音色が、教会の祭式に素晴らしい輝きを添え、こころと天上のものへ高く揚げる伝統的楽器として、ラテン教会において大いに尊重されなければならない」として、パイプオルガンをラテン典礼における基本の楽器としていますが、「他の楽器は、それが聖なる用途に適しているか、あるいは適合することができ、しかも、聖堂の品位にふさわしく、真に信者の信仰生活に役立つものであれば、地域的権限保持者の判断と同意のもと(中略)神の礼拝に取り入れることができる」ともして、パイプオルガン以外の楽器の導入にも一定の理解を示しています。カトリック以外では、特にアメリカのプロテスタント教会では、ピアノやパーカッションを取り入れているところもあり、これが、近年日本でもヒットしている「ゴスペル」を生んだことは記憶に新しいのもです。
 パイプオルガンは、確かに、人の声、発声に近く、音色も素晴らしいものですが、音量などは、やはりヨーロッパの大きな聖堂ヨーロッパ人の体系を基準に作られており、日本の小教区の聖堂日本人の体格や声量には大きすぎるところもあります。これからのパイプオルガンヨーロッパの大きな聖堂の物まねではなく、日本の小教区の聖堂日本人の体格や声量、あるいは、日本の風土に合った音量・音質のストップを使ったパイプオルガンが作られるようにと願います。と、同時に、日本の『典礼聖歌』には、意外とリードオルガン(ハルモニウム)も合うのではないかと思います。

 いずれにしても、今までのパイプオルガンのよさを持ちながら、日本人の繊細なこころ、音楽を生かすパイプオルガンができるように、オルガン製作者の方々の大いな研究・努力をお願いするところです。


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