033162 ランダム
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晩秋に舞い落ちる雪の華の名・・・。

晩秋に舞い落ちる雪の華の名・・・。

プロローグ ETERNAL WIND


血液と共に体の力が抜けていく。
手も、足ももはや自分の言うことを聞いてはくれない。
それが己が選んだ道だった。
愛するものを護る盾となること。
いかなる力にも屈しない勇気という名の最強の盾。

「護れた・・・よな・・・」

ぼやける視界で周りを見た。
数十、いや、数百の骸が地面に横たわっている。
たった一人でその死体を作り出した者。
それは人であり人でなかった。
背に生えた大きな6枚の羽根。
純白だっただろうその翼は、返り血と自分の流した血液で赤黒く染まっていた。
天使。
しかもその羽根の数は彼がその最上位に立つことを示している。
しかし血まみれの彼の姿は、天界を統べる最上級の天使というよりも、地獄に君臨した魔神と称す方がぴったり来る。
彼自身、自分が天使であることを認めてはいなかった。
戦いに生き、多くの命をその手で奪ってきた。
自分が生きるために。
自分が護りたいものを護らんがために。
その行為は結果として神の意思にも反した。
故に彼は名乗る。
天使ではなく自分は魔神であると。

自分の前に敵がいないと分かってその身体は自分がもう休めることを知った。
ゆっくりと・・・・地面に崩れていく。
おびただしい流血が彼の倒れた大地を真紅に染める。
背中の羽根は音も無く消えうせた。
まるでそこには何も無かったかのように。
不思議と痛みは無かった。
いや、痛みを感じることすら出来ないほどに彼の身体が壊れていただけかもしれない。
朦朧とする意識の中で彼は自分の名を呼ばれていることに気がついた。
「フィーク!!こんなところで死ぬな!!!」
地面に倒れ伏した身体が抱きかかえられた。
目はもう開かない。
しかし、それでも駆けつけてきた者が誰かは理解できた。
いつも微笑みを絶やさず周りを支え続けた親友。
「兄様・・・やだよ。目をあけてよ・・・・・」
ぽたぽたと降り注ぐ雫。
それは血の繋がりが無い妹が流した涙。
そんなに悪い人生じゃなかったな・・・・。
記憶が無かった俺にも最高の友人に最高の家族が出来た。
そしてなにより最愛の人に出会えた。
その思い出が詰まったこの街を護ることが俺の役割だとそう決めて・・・。
その全てを護れた。
なら、思い残すことは無い。
「ランちゃん、放って何処行くつもりだ!目を覚ましやがれ!!」
・・・ラン・・・・ごめん・・・・。
声にならない声。
脳裏に浮かぶ彼女の笑顔。
それはいつだって安らぎを与えてくれた。

「また消える気なのかよ。
いつもいつも大事な人の前でいなくなって。
お前の事をどれだけの人が必要としてるか考えた事あるのか?
ランちゃんだけじゃない。
俺だってエルだって本当にお前の事を愛してるんだぞ」
泣いていた。
いつも微笑みを絶やさなかった親友が。
二人ぶんの涙が顔を濡らしていく。

我ながら無責任だな・・・・・。

そう思い最後の力を振り絞り僅かに口を開く。
「また・・・あえ・・・る・・・さ」
根拠は無い。ただ会いたいと思っただけだ。
奇跡はもう起きないだろう。
この地で会えた事がすでに奇跡だったのだから。

金色の風が力尽きた身体を包み込む・・・・。
そして、彼の身体は親友の腕の中で風に消されるように消えうせた。

「フィーク!!!」
「・・・・兄様」
絶望への叫びと呟き。
二人の涙は大地を濡らし続けた。


一つの終焉であり一つの序章でもある。
・・・・・これはアトランティスに伝わる風の魔神の伝説。


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