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晩秋に舞い落ちる雪の華の名・・・。

晩秋に舞い落ちる雪の華の名・・・。

第2章2部

ライドから数日歩いたところにバハムートが住む神竜山がある。
さしものマリもその神竜山に直接テレポートすることは出来ない。
テレポートという魔法は非常に使用が難しいものだ。
空間転移後の場所に何らかの物体が存在すれば、その物体と術者や術をかけられたものに融合する。
それは生物にすればほぼ確実な死であるし、下手をすれば融合によって生じたエネルギーが大爆発を引き起こす可能性がある。
ゆえにテレポートの魔法は魔術師ギルドや王城、軍の駐屯地の限られた場所にのみ使用が許可されているのである。
しかも、術者がその場所を熟知し、正確なイメージを頭の中で描く必要がある。
つまるところ、戦闘中にいきなりテレポートでの戦闘離脱などある意味自殺行為に等しい。
そういう都合でまりちがライドの街にテレポートしたのは仕方が無いことであった。
エグゼルたちはライドの軍の駐屯地を足早に出ると神竜山に向かった。

「神竜山にはバハムートのほかに魔獣がいるのか?」
登山になって二日目。道無き道を歩き、山頂を目指す。
コークスは未だ一度も無い魔物との遭遇に不満を漏らすようにエグゼル達に尋ねた。
「バハムートの神気によって並の魔獣は存在しません。
しかし、神竜を護るべくその眷族が巣食っているはずです」
コークスの問いにエグゼルが答えた。
「双璧っていっても何にも知らないのね」
マリはコークスの頭をぽんぽんと平気で叩く。
「悪かったな。どうせ俺は剣を振るうことしか能がない馬鹿だよ」
ふてくされたように言うコークス。
「なら、そのお馬鹿にに眷族の事を教えてあげる。
バハムートの眷族いえ、ドラゴンの眷族はリザードマンなの。
竜語魔法っていう特殊な魔法を使って、上級のものになるとドラゴンにすら変身できるらしいわ」
「リザードマンってトカゲ人間だろ。
そいつらなら戦ったことがあるがたいして強くなかったぞ」
コークスの戦歴は凄まじい。10歳の頃から傭兵として戦場を駆け抜けていたほどだ。
それ故に今の強さを誇っているのであるが、如何せん彼には知識を養う時間がなかった。
「その辺の沼や山地に住むリザードマンと神竜を護るリザードマンを一緒にしない方がいいと思いますよ」
一応忠告するようにエグゼルが言う。
「ま、どんな奴だってドラゴン以上の強さは持っていないんだろ?ならまったく問題無しさ」
「竜殺しの英雄ならではの答えね」
竜を殺せる人間がその眷族に後れを取ることなどまずはない。
「最強の双璧ですからね。当てにしていますよ」
言いながらエグゼルは今まで手にかけていなかった剣の柄を握った。
異様な気配が辺りを支配しているように思われたからだ。
「なら……早速当てにしてもらおうか」
コークスはあくまで今まで通り。
つまるところ、コークスはいつでも戦闘態勢なのである。
「囲まれてるね。何時の間に?」
「いつでもいいさ、退屈しのぎには丁度いい」
足を止める3人。
そして数分後、異形の一団がその姿を現した。

「お前達、何をしに来た」
一団の一人が声を発した。
人間が使う共通語。しかし、それはどこと無く違和感がある。
それもそのはずその一団は人間ではないからだ。
リザードマン。その数はざっと50はいるだろうか。
「神竜山を訪れるものがやることといったらたった一つだろうが」
挑発するようにコークスが言う。いや、実際挑発しているのだろう。
肩にかけた大剣が楽しそうに揺れている。
「愚かにもまた神を殺しに来たか。人間どもよ」
「神の手を煩わせる事も無い。我々がここでお前達を殺す」
リザードマン達がいっせいに武器を抜き放った。
「エグゼル、コークス。ここは任せてもいいかな?」
二人の肩にぽんと手を置きながら言うマリ。
マリの呪符は使用すればその分バハムート戦に支障をきたす。
そう、あくまで彼女はバハムートに対する最強の盾なのである。
「そうですね。こんなところで呪符を使うこともありません」
「じゃあ、いくか!!」
エグゼルとコークスの剣が唸りを上げた。
エグゼルの剣は確実にリザードマンを一体ずつ斬り捨て、コークスに至ってはその横薙ぎの剣で複数のリザードマンを両断する。
「こいつら……強い!?」
圧倒的な数を誇るリザードマン達に動揺が走る。
「自分達が強いのではなく貴方達が弱いのですよ」
「強さなんていうのは相対的なものだからな。
命が惜しけりゃさっさと俺達をバハムートの処まで案内しやがれ」
剣に付いた血のりを払いながらエグゼルとコークスは言う。
そのときリザードマンの一団が真っ二つに割れた。
その奥から現れたの一人はその体躯からして今までのリザードマンとは違う。
「そこまでにしてもらおうか。人間達よ」
共通語の発音も流暢で違和感が殆どない。
「貴方がここを治める長ですか」
エグゼルは彼に尋ねた。
「そうだ、我が名はリュード」
リザードマンが答えた。他の一団はリュードに平伏すように後ろに下がっている。
「では、貴方にお願いしましょう。
自分達をバハムートのところまで連れていってください。
ここでの戦闘は我々には無意味なことです」
「お前がリーダーか?」
エグゼルの言葉に返すようにリュードの問い。
「………だれよ。私達のリーダーって?」
マリが頬を掻きながらエグゼル達に言った。
「間違いなくエグゼルだろう。俺はただの助っ人だからな」
実力的にはコークスが最も上である。
しかし、今回のコークスはパラダイスの助っ人にすぎない。
「………どうやら自分らしいです」
ほんの少し顔を引き攣らせながら答えるエグゼル。
「ならば私もお前に言おう。
我らが神に逢いたければ私を一人で倒してみよ」
リュードは剣を抜き放った。炎をイメージさせる刀身。
一見して魔力を帯びていることが見て取れた。
「解りやすい秤ですね。
あなた方はバハムートを護るために存在するのではなく、バハムートと戦う資格がある者を選別する為に存在しているのですね」
言いながらエグゼルの意識は戦闘モードへと移行した。
その身に纏う闘気はリザードマンの一団達に囲まれていた時よりも遥かに強い。
「聡明だな。しかも、その若さで普通は持ち得ないほどの闘気を身に纏うか」
リュードもエグゼルが只者ではないことを理解したようだ。
剣を構えエグゼルの出方を伺う。
「パラダイス所属副隊長エグゼル。参る!!」
エグゼルが地を蹴る。
フェイントも無くただ真正面からの剣戟。
リュードはそれを難なく受け止め一撃を返す。
エグゼルがそれを避ける。
しばらくの間、一進一退の攻防が続いた。

「出来るな……二人とも」
「うん。武術は専門じゃないけどそれはわかるわ」
少し離れたところで見ていたコークスとマリが言う。
「こんな楽しいことなら俺がリーダーになっておくんだったな」
「後悔先に経たずってね。今回はエグゼルに花を持たせなさいよ」
剣技においてエグゼルはリュードに勝っている。
今はほぼ互角だが、後少しでエグゼルがリュードを追い込むだろうことはコークスにはわかった。
暫くしてコークスの予想通りエグゼルの剣がリュードの剣を跳ね上げた。
「いい剣技だな。しかし、私には通用せん」
剣を失ってすらリュードは余裕を保っている。
エグゼルの剣は横薙ぎでリュードを捉えた。
鋼鉄すら切り裂くミスリル銀製の剣はたとえリザードマンの強靭な鱗を持っても防げないはずだ。
しかし、リュードはさしたる傷も無しに平然とたたずんでいる。
そして彼は大きく息を吸い込むと、その口から灼熱の炎を吐き出した。
不意をつかれつつもエグゼルはとっさにマントでその身を包み込んだ。
炎を弱める水属性のマントだからこそ助かったのだろう。
普通のマントならば今ごろ黒焦げになっていたはずだ。
それでも、多少の火傷は負うことになったが。
「なるほど……竜語魔法ですね」
竜語魔法には自らの皮膚をドラゴンの鱗に変質させるものや、ドラゴンのように口から灼熱の炎を吹き出す事が出来るようになるものがある。
エグゼルは額に汗を垂らしながら一人納得するように呟いた。
「我が身体はドラゴンの鱗を纏っている。
ミスリルの剣が如何に鋭かろうと竜の鱗は斬り裂けん」
鱗の守りと炎での攻め。
確かに簡単にカタがつくような勝負ではなさそうだ。
しかし、エグゼルはたった一言言い放つ。
「我が剣に斬れぬもの無し」
「何をもってその言葉が紡ぎだされる」
リュードの声に怒気が孕む。
それを遮るかのようにエグゼルは剣を天に掲げて高らかに叫ぶ!
「魔法剣………ライトニングソード!!」
天空に稲妻が迸り、それはエグゼルの剣に吸収された。
刀身に稲妻が纏われているのが遠目にみてもわかる。
それは魔法剣士であるエグゼルの最も得意とする技だった。
「お前はエンチャンターか」
「貴方が魔法を使うなら自分も魔法を使っても構わないでしょう?」
言いながらエグゼルはリュードに向かって跳んだ。
エンチャントは確かに強力な魔力を武器に付与する。
しかし、その効果は時間が経つにつれ自然と弱まってしまう。
つまり、エンチャントとは短期決戦が前提となる戦法なのだ。
リュードもエンチャントの特徴を知っていた。
時間を稼げばそれはリュードの勝利を意味する。
迫るエグゼルに対し、リュードは後ろに引きながら炎を吐き出す。
エグゼルの取れる防御方法は二つ。
前進を止め、再びマントで防御するか、横に身を躱すかである。
どちらにしても距離は縮まらず、さらに炎の洗礼を浴びせかけることが出来る。
この距離は接敵しなくても攻撃手段を持つリュードが有利だ。
そう、エグゼルが防御という行動を取ったならば。
エグゼルは炎の中に身を躍らせた。
『いいか、戦いの中で無傷を前提に戦うことは敗北を意味する。
いかなる場合も傷を負うことを恐れるな』
エグゼルは炎の中で一番大事だった人の言葉を思い出していた。
エグゼルに剣と魔法を教えた師であり、たった一人の最愛の兄。
激しい痛みがエグゼルを支配しようとする。
それでもエグゼルは前進することを止めなかった。
やがて炎が収まりエグゼルの眼前には炎を吐いた後の無防備なリュードの身体があった。
エグゼルは剣を降りかぶり、リュードの腕をあっさり斬り落とした。
「なるほど……お前のいう通りだ。竜の鎧を切り裂くとはな。しかし、なぜ急所を外した」
今の一撃、やろうと思えばリュードを両断できたはずである。
「言ったはずです。我々がここで戦うことは無意味であると」
いかにミスリル銀の鎧を身に纏っていたとしても満身創痍。
それでもエグゼルはリュードに対しあくまで試合という形式を押し通した。
「認めよう。お前の心は何よりも強い。我らの集落で傷を癒した後、我らが神の居城に案内しよう」


エグゼル達はリュード先導のもとリザードマンの集落に移動した。
リュードとの一騎打ちで全身火傷を負ったエグゼルだが、用意していたマジックポーションなどでその傷はほぼ完治している。
「リザードマンって文明のレベルが低いと思ってたんだけどそうでもないみたいね」
マリの言葉の通り、目の前にあるリザードマンの集落は街といっても過言ではなかった。
辺境の村と比べれば、はるかに建物の構造がいい。
「我らを並みのリザードマンと同じにしてもらっては困る。
神竜の力によってこの地に生を受けた我らは、かのものの加護を受けているのだからな」
神竜の加護を受け、自身に挑むものを選別するために創られた眷属。
その力は確かに並みのリザードマン以上だろう。
「たしかに・・・・人間の町でも中々無いぜ。これほどの巨大な神殿は」
集落の一番奥にはひときわ巨大な神殿があった。
竜を形どった岩の彫刻が数十と並んでいる。
「まさかこの奥に?」
神殿の前に立ち止まりエグゼルはリュードに尋ねた。
「そうだ、この神殿は山頂のバハムートへ至る唯一の道。
幾多の勇者たちがここを通り抜けたがいまだ帰ってきたものはいない」
神殿の奥を真っ直ぐに捉えリュードは言葉を発する。
「今まで送り込まれた討伐隊も屍かよ」
「そう思うのが順当ですね。
まさかバハムートが自分を倒しに来た輩を黙って帰すはずがありませんから」
この先は生と死の境界線になるだろう。
エグゼルは意を決し一歩を踏み出そうとする。
しかし、それをリュードが諌めた。
「今日は私の家で休むといい。
神と戦うのだ。消耗したままでは100%勝つことは出来ん」
確かにエグゼルは見た目は何の損傷もないようだが、かなりの体力を消耗している。
コークスはまだまだ余裕があるが、マリも慣れない登山でいい加減体力の限界になりつつあった。
「いいの?私達、一応貴方達の敵なのよ?」
マリは怪訝そうにリュードに言う。
そう、この3人は間違いなくリザードマンの敵である。
先ほどの戦闘でリザードマンは20人ほどエグゼルとコークスによって切り伏せられた。
その半数は命が助かってはいない。
「すでに神と戦う資格を得たものになぜ敵対せねばならん?」
あっさりと、しかしはっきりリュードは言った。
「割り切ってやがるな」
それを聞いてあきれたように言ったのはコークス。
「割り切るも何もそれが我らの使命だからな」
使命のために生きる事がこのリザードマンたちにとっての常識なのだろう。
たとえそれで死ぬ事になったとしても。
「もし・・・バハムートが倒れたら貴方達はどうするの?」
「使命から開放されるのみだ。何が変わるというものでもない。
我らはここに住み、そして生きる」
これもあっさりと答えたリュード。
「・・・そうですね。ところで腕は大丈夫ですか?」
エグゼルはリュードの止血された傷口を見た。
右肩から先が存在しない。
それはエンチャントの威力がいかに強いかを物語っていた。
「一月もすれば生えてくる。
我らはもとより、神竜はリジェネレーションをもつゆえな」
「リジェネレーション・・・自己高速回復ですか?」
「そうだ。魔力を生命力に変換し、傷ついた器官を再生させる。
回復力は魔力によって異なるが、我らが神なれば腕の一つなど、ものの数分で回復するやも知れん」
この集落の長であるリュードですらバハムートの能力を見たことがないのである。
しかし、神と同列に置かれるバハムートの魔力であれば大抵のことはあっさりやってのけるだろう。
「守りに入ったら絶対負けるな。俺達の中にまともな回復魔法を持ってる奴がいない」
生粋の戦士であるコークスはもとより、エグゼルとマリも簡単な回復魔法が使えるぐらいだ。
傷の回復はポーションに任せたほうがまだ分がいい。
「どのみち短期決戦なんだって。私の呪符が切れたらそれでもう終わりでしょ?」
マリは懐の呪符を一枚取り出すと大空に投げた。
それは鳥に変化し、何処へか飛び立つ。
通信用の式紙である。
「戦いになれば一気に決めます。
でも今日はリュードさんの言葉に甘えて、ゆっくり休ませてもらいましょう」
それを見送るとエグゼルはコークスとマリに声をかけた。
明日は・・・・決戦。



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