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海洋冒険小説の家

海洋冒険小説の家

(4)・・歓声が繰り返された。

 (4)

 助左衛門は、そろそろあれをやろうか、とメンバーに合図した。時も丁度いい頃合だ。毬子がディフェンスの大二郎から、どういう訳か、ミッドフィルダーになった助左衛門が受け取り、ミッドフィルダーの二騎が攻撃に参加した。これで、五騎攻撃が出来る。攻撃陣は左と右に二騎と三騎に分かれ、怒涛のように敵毬門に殺到した。敵守備陣も二手に分かれ、「いやぁーっ」とおめき叫んでこれを迎え撃った。助左衛門から右三騎にパスが出され、これを左二騎の方にロングパスされて、そうこうしているうちに、いつの間にか助左衛門が真ん中から一騎突っ込んできていて、大きく開いた真ん中のスペースから、バックパスで渡ってきた毬子を思いっきり毬杖でたたいた。毬門までちょっと遠いように思えたが、角度が良かった。
 毬子はカーンという澄んだ音を残し上にあがった。息をひそめてこの成り行きを見守る毬技場の全観客の目が毬子の行方を追った。毬子は大きく弧を描いて、ゆっくり毬門に吸い込まれ、白旗が二本さっと上がった。この、とっておきの作戦がずばり当たったのだ。毬杖を天まで届けとばかり助左衛門は突き上げた。
 毬技場の歓声は渦を巻いて地を揺るがした。と同時に法螺貝が試合終了を告げる長い長い音を響かせた。審判席の三人が立ち上がって勝利者に手を振った。商人チームは全員毬杖を突き上げ、歓声を上げて助左衛門のもとへ馬を走らせてきた。馬も後ろ足で立ち上がり、狂気乱舞した。
 毬技場の外の林のなかでは、馬を柵につないだあと、チームの各々のメンバーがたくさんの人たちに囲まれて、喜びを分かちあっていた。
 「良かった、良かった」
 こんな楽しく嬉しいことはないなとみんな、顔が輝いていた。南海丸や店の連中もやってきて大変な騒ぎだった。
 「腹がへったなあ」
 助左衛門は改めて思った。試合中は気が張っていて、途中で食事をとらなくても気にならなかったが、試合が終わると、いっぺんに腹が空いたのだ。瀧がすぐ気が付いた。
 「にぎりめしにする?饅頭にする?」
 迷わず饅頭をとった。菜を刻み、鳥の肉の入ったこの饅頭は助左衛門の好物なのだ。水を飲んだあと、がぶりと饅頭にくらいついたとき、誰かが、
 「助左衛門殿はどちらでござる」
 大声で叫ぶ声が聞こえてきた。声の調子から、何かいやな予感がした。あの声は聞いたことがなく、侍の声だ。だんだんその声は近づいてきて、とうとう、みつけられてしまった。
(続く)


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