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海洋冒険小説の家

海洋冒険小説の家

(3)早く戦のない世の中を・・・

     (3)

 鴨川の東側の道を三条通りまで馬をゆっくり歩かせた。この時刻になると、人も多くなってきた。いよいよ粟田口から山道に入る。以前はこの粟田口には関所がもうけられて関銭をとられたが、今は建物に人はいなかった。ただ、近くに見張り小屋がつくられて、数人の足軽たちが街道を見ていた。
 信長は新しく領国になったところは関所を撤廃した。これによって、商人も動きやすくなったし、商品の流通がどんどん進んだ。ところが、京の七口といわれる京への入り口には未だ関所が残っていた。
 京に入る街道は七口以上あったのだが、関銭をとっていたのは、伏見口、嵯峨口、木幡口、大原口、粟田口、鳥羽口、鞍馬口である。ここだけは、所領をなくし関銭の収入に頼っている禁裏、公家などに配慮して、関銭をとっていると聞いていた。
 しかし、鳥羽口にも、ここも、誰もいない。これは、助左衛門の考えだが、織田方の軍の動きの激しい街道の関所は、通行自由にしたのではないか。播磨攻めの兵や摂津の本願寺攻めの兵が、粟田口と鳥羽口を頻繁に通る中で、関所の機能が一時的に麻痺して休止しているのではないか。
 嵯峨口は明智惟任日向守の軍が丹波攻めのために、よく通るだろうから、そこも関所は休止しているだろう。これ以外の関所では関銭をとっているかも知れぬ。馬を歩かせながら、六兵衛に自分の考えを話すと、六兵衛もそれに賛成した。
 「信長殿が天下をとれば、日本国中の関所はなくなるやろな」
 「だいたい、豆腐二丁が一文(約百円)、川の渡し賃も一文、茶が一服で一文とみんな苦労して銭を稼いでるちゅうのに、ただ関銭をとるとはもってのほかや」
 六兵衛が腹立たしそうに言う。瀧が、
 「物の値段のことやったらわたしに聞いてんか。米一斗(約15キロ)が五十文、素麺1把八文、芋(里芋)一升二文、蓮根一本四文、大根五本で一文、牛蒡(ごぼう)一把三文、茄子十個が一文、こんにゃく二丁が一文、奈良漬一個四文、鯛一匹五十文、鰯一升六文、昆布一本一文、塩一升六文、醤油一升十文、味噌一升八文、酢一升八文、そして酒が一升十文、だよ~~」
 そこまで言って、瀧はふふふっ、と笑った。

 「ようけゆうたなあ。ほんまに、一文一文と稼いで日々の暮らしを必死にやっているもんがおるちゅうのに、な~んもせんと、人が通るだけで銭よこせとは、山賊もいいところの商売やないか。こんなもん、あるのが最初からまちごうとるのや」
 「しかし、新しい領主というもんが突然堺にやってきて、銭出せいうのんと、あまり変わらんと思うけど?」
 「そらそやけど」
 「なにしろ、堺から矢銭やゆうて二万貫文もふんだくった人の所へ、今行こうとしてんねんで」
 「ほんまにそうやった。よう考えたら山賊の頭のところへ行くようなもんやなあ」
 瀧が助左衛門に聞いた。
 「京の七口の関銭っていくらやったん?」
 「聞いた話では、七口はそれぞれ持ち主というか、管理している公家がちごうていたんで、すこしづつ関料は違っていたらしい。西園寺、今出川、山科、萬里小路(までのこうじ)などが取り仕切っていたようや。大体、人ひとり一文から二文、馬の荷駄については一駄で、米、大豆、小豆、雑穀、紙、布、塗り物などは五文まで、魚や鳥は三文。銅銭は高くて、運んでいる者は五文、荷駄は十文。それに犬が三文」
 「え~っ、犬が三文?。人の三倍高いやんか。嘘やろ?」
 「さーあ、聞いた話やさかい、ほんまかどうか」
 ここまで言って、助左衛門はニヤっと、笑った。
 瀧は疑わしい顔をした。
 「いや、それはどうかしらんけど、長門の国(山口県)の赤間の関と九州は豊前の門司の間の渡船の渡し賃は、人は一文やのに犬は十文もとってたらしいで」
 「へ~え、そんなことしてたん。けど、吠える犬のそばには誰もいきたがらへんさかい、人の十人分場所とったんちゃう?」
 「そやろな」
                      (続く)


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