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海洋冒険小説の家

海洋冒険小説の家

(8)ダ・ヴィンチの飛行機

     (8)

 「我ら公家は消え行くものとして理解しておる。ただ、必死に今を生きておるだけなのじゃ。これからも武家が政治の総てを行っていくじゃろう。そして、何年先になるかは分からぬが、武家の時代も終わりを告げ、今度は商人や百姓衆や職人衆が政治を担う時代が到来するじゃろ。わしは、そう思うておる。堺の町が町衆だけの力でやっていくには、すこし時代が早すぎたのじゃ。エウロペでは、商人と町衆の国があちこちで生まれておるから、そのうち我が<日出づる国>もそうなるじゃろ」

 今から十年前、即ち永禄十二年(1569年)二月十一日、堺の町が信長の軍門に下ったのを、助左衛門が歯軋りして悔しがったのを見て、そう言ってなぐさめてくれた。そのとき、助左衛門は堺におらず、二月はアユタヤにいたのだ。堺に帰りついたときには、もう決着がついていた。それにしても公秀殿は、先の世の事が見通せているようだ。
 
 公秀殿には無理やり南海丸に投資させて、かなりの財を得させるように協力してきた。だが、学問のためには銭を惜しまず使う人なので、いつも銭には困っていた。南海丸が帰ってくると、収入がどっと入ってくるので、毎年、今頃は一息つける、といった状況だった。けれど、未だに自分がどのようにして投資をし、利益をあげているのか皆目(かいもく)知らなかった。とにかくそういう人なのだ。そういうところが助左衛門が好きなところなのだった。

 「人を乗せて空を飛ぶ良い方法は何かありましたか?」
 これが知りたくて、助左衛門はいつもここへくるたびに聞く。
 「ああ、ダ・ヴィンチの方法以外でな。ダ・ヴィンチは蝙蝠(こうもり)の形に注目した。鳥の羽は複雑で作りにくい。蝙蝠の羽は骨格に布を張ったようで、作りやすいと考えた。ほら、あれじゃ」
 手で指し示したところに、それがあった。天井から吊るされていて、巨大な蝙蝠の形をしている。木の骨に布が張ってあった。
 「最初、鷹のように空を滑るような飛ぶ方法を考えたのじゃ。しかし、これは広い場所と風が強く吹く土地が必要じゃった。京では無理じゃ。ところが、去年の祇園会の見物に来た明国の商人に偶然聞いたのじゃ。唐国のある土地の祭りで大空にものを乗せて飛ばすことがやられている事をな。それからそれをずっと試しておる。そしてほぼ出来上がった」
 「ええ!、本当ですか」
 「それは、今、ここにはない。大きな小屋が必要じゃったから、嵯峨野の天竜寺の近くに土地を借りて小屋を建てた。そこに置いてある」
 「実際にそれを飛ばしたことはあるんでっか」
 「いや、まだない」
 「まだないって?。ほんまに飛ぶんでっか?」
 「飛ぶ。わしの計算に狂いはない」
                 (続く)

 



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