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海洋冒険小説の家

海洋冒険小説の家

(9)人を乗せて飛ぶ船

     (9)

 次郎丸は、助左衛門とおじいさんの話しを聞いていて、なんだか嬉しくてうきうきしてきた。人を乗せて空を飛ぶ船があるとは。竹取の翁の話に出てくる、かぐや姫をすぐ思い出した。かぐや姫も、ひょっとしたらこの空飛ぶ船で月に帰ったのかも知れない。
 「その空を飛ぶ船は何人くらい乗れるんですか?」
 「いま、船と言ったな?。そうか、船か。いいな。空飛ぶ船か。よし、わしのつくったものに、空飛ぶ船と名づけよう。そして、」
 ここで、「にーっ」と笑って、
 「船の名はなんといたそうか?」
 「かぐや姫丸はどうでしょうか」
 「かぐや姫丸とな。空飛ぶ船かぐや姫丸。これはいい名だ。次郎丸。この船は乗れるのは五人位じゃ。空を飛ぶというのは気持ちがいいぞ」
 以外な所からネーミングが決まって、次郎丸も喜ぶは、公秀殿も満足気である。見学は後日ということにして、安土で起こった出来事を説明し、能舞台の照明のことを相談した。公秀殿は自分の仕事部屋に皆を連れて行き、机におおきな紙を広げ、筆で図面を書き始めた。
 「京では山賊、強盗などが最近出没しとったのじゃが、主に夜が活動の中心じゃ。それで、連中は携帯に便利でかつ暗闇に光を集める事が出来て、どんなふうに持っても火が消えず、安全なちょうちんを造りおった。それを京の者は、強盗提灯(がんどうちょうちん)とゆうておる。これがそうじゃ」
 紙に書かれた図面には三角形の円錐形のものが描かれていた。その広い口の中にろうそくが立てられて、それがくるくると回るしかけになっていた。内側は水銀で磨かれて鏡のようにピカピカ光っているという。
 「これの口の所に、赤のビードロの板をかぶせると、赤い光が出る。青であれば青色、黄であれば黄色が出る。これを十二個作らせよう。銅板で大きいのをな。ろうそくは太い物であれば、かなり強い光が得られる。これをあちこちから、能舞台を照らせば、夢か幻かという雰囲気になろう。どうじゃ?」
 
 「いやぁー、それでよろしいです。二十日に三条あたりの旅宿で泊まりますので、その時までに出来ますやろか?」
 「充分に出来る。それにこれを支える道具もいるのう。ついでにつくっておく。わしの仕事を手伝ってもろうておる、職人たちの仕事ぶりは、早くて正確じゃ」
 「それでは宜しく頼みます」
 公秀殿の屋敷を辞した。帰り際、お倉方(財政)を預かる弥兵衛じいさんに、為替を何枚か渡した。これは、今回の南海丸の投資分の儲けと、強盗提灯の費用の分だった。京の四条にある銭屋の出店に行けば、銭と交換することが出来る。手数料はいくらだって?。この時代、大体五分(5パーセント)が相場だったが、銭屋さんも公秀殿に一目置いていて、手数料は取らなかった。
                 (続く)


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