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海洋冒険小説の家

海洋冒険小説の家

(14)黒旗の海賊衆の襲来

    (14)

 「そうや、海賊のこと相談せんならんと思うてましたんや」
 「海賊?」
 「そうです。黒旗の海賊です。大頭目の六条の院が手下を連れて、どうもこの京の町のどこかに潜んでいるようなんですわ」
 「ふむ、それは書状に書いてあったな」
 「そうです。それで、その対策というか、手立てはしてありますか」
 「ふふふふ、わしがなにもしていないと思うか」
 「いや、そこが心配で聞いてますねん」
 「ちゃんとしてある。心配いたすな。やつらがもし、わしの前に現れたら、えらい目にあわせてやる。楽しみに待っておるところよ」
 ほんまかいな、とつい思ってしまう。とにかく乗りが軽いので、心配してしまうのだ。このあと、茶室を出て、みんなのいる広間に向かった。

 広間ではかなり盛り上がっていて、権大納言の顔を見ると、一同から歓声と拍手が起こった。
 「さあさあ、あるじ殿はここへおすわりくだされ。そーれそれ、かけつけ一献といきますか」
 公家の一人が、世話を焼いた。それからひとしきり、打毬の話で花が咲いたとき、家人がやってきて、権大納言になにか耳打ちした。権大納言の顔が一瞬、引き締まった。そして、何か指示を出したようだった。
 助左衛門を手招きして呼び、
 「鳴子の鈴が鳴った」
 「鳴子の鈴って?」
 「わしの屋敷にはな、あちこちに、てぐす(注1)が張ってあって、その先に鈴が付いておる。普通の鳴子では板に竹が付いておって、大きい音で鳴る。それでは忍び込んだものにも分かってしまう。それで、小さく鳴る鈴にしたのじゃ。その鈴が鳴った。屋敷に誰か忍び込んだらしい。皆に用心するよう伝えてくれ」
                   (続く)
[注1=てぐす=天蚕糸、楠蚕などの糸で作られた透明な釣り糸]




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