山本ふみこさんのうふふ日記

2013/09/17(火)10:14

そわそわ止め

うふふ日記(84)

 風の音で目が覚めたのが午前3時45分、台風はほんとのほんとに近づいてくるようだ。  9月16日月曜日(祝日/敬老の日)、台風18号が恐ろしい活躍を見せている。  午前9時。  長女が部屋に置いているロードバイク(自転車)を連れて階段を、ぼころんぼころん音をたてて降りてきた。  「……サ、サイクリングですか?」  と訊く。  「ちょっと駅前まで。レンタルのDVDを返してくるだけ」  どうやら延滞料3枚分900円を惜しんでいるらしく、「止めなさいよ」というわたしのことばにも、「妹が止めるのも聞かず、ということだからね」という二女の怖いことばにも耳を貸さず、出かけた。常よりも念入りに火打石をかちかちっ(石ふたつを打ちつける火打石風である)とやる。自転車の分と2回。  ラジオで、被害地域の名前がつぎつぎと読み上げられる。それぞれの地に暮らす友人たちの顔を思い描く。宝塚市の祐美子ちゃん、京都市のまみ子さん、木津川市の素子と典子さん、香芝市の綾さん……。どうか無事でいてください。  わたしはいま、机に向かっている。机に向かって、これを書いています。  ほんとうだったら、いまごろは運動靴を履き、帽子をかぶって武蔵野市内12kmをすたすた歩いているはずだった。「スポーツ祭東京2013」(*)のデモンストレーションとしてのスポーツ行事「ウォーキング」(武蔵野会場)に申しこみをし、参加を許されたのだ。それが台風直撃の予想のもと、前日の午後、中止と決まった。もともと「雨天決行」ということになっていたが、雨天を超え嵐になる模様だから、とのことだった。   中止を知らせる電話で聞いたところによると、90歳代の参加者もあったそうだ。それを聞いて、そういう方とならんで歩いたり、それが無理でも握手していただいたりしたかった、とまた別の残念が頭をもたげる。  台風のニュースは、「これまで経験したことのないほどの雨」「ただちに命を守る行動をとってください」ということばとともに伝えられている。かつてない表現ではなかったろうか。  落ちつかない、そわそわした気分を持てあまし、することまでそわそわしたものとなる。ウォーキングをあきらめた事実も、わたしの手もとをうつろなものにしている。  ——そうだ、こんなときには「小さいしごと」にとり組むのだった。  そういうわけなので、少し机をはなれます。  風の音と張り合うように掃除機をかける。  立ったまま足で床拭きをする。  机まわりを片づける。  天板に鶏もも肉2枚、玉ねぎ、皮つきじゃがいも、万願寺とうがらしをのせてオーブンに入れる。あ、その前に庭に出て、吹き飛ばされそうになりながら、ローズマリーを2茎摘んできて、それを鶏肉の上に置く。  野菜をすっかり刻んだり、皮をむいたりして寸胴鍋にスープをつくる。  これらひとつひとつは、どれも「小さいしごと」だが、いくつか重ねたあとの、いまの達成感はどうだろう。  そう云えば、もうひとつ、達成感たっぷりの「小さいしごと」にとり組んだのだった。それは、嵐のなかDVDを返却しに行き、15分後ずぶ濡れではあったものの無事帰還した長女の「小さいしごと」の手伝いであった。このひと月あまり、ある見ず知らずのひとに問い合わせの手紙を書こうとしていたが、どうにも気が張り、とりかかれないでいたという。  「それをたったいま、しようと思うの。これ、見てくれる?」  そう云って長女に手渡された帖面には、ぎっしりボールペン文字が書いてある。書こうとしている手紙の下書きだ。こういうものを手直しするのは、お茶の子よ、まかせておいて。鉛筆を握りしめて、ところどころ消したり、ことばを加えたりする。自己紹介からはじまる問い合わせの手紙で、気持ちのこもったいい手紙だった。  群言堂の便箋と封筒と、少女の姿の描かれた記念切手を、渡す。どちらも、わたしのとっておきだ。  ——本日のそわそわ止め、これにて終了。                               *   台風18号が日本各地にもたらした、思いがけないほど大きな被害が、思いがけないほど早く収束し、少なくとも……、ひとのこころに傷を残しませんように。 * 「スポーツ祭東京2013」   第68回国民体育大会(国体)・第13回全国障害者スポーツ大会が開催されます。2013年9月28日−10月14日。  わたしの住む武蔵野市ではラグビーフットボール(7人制)、バスケットボール、グランドソフトボールの競技が行われます。なかでもわたしは、5月に開催されたリハーサル大会を観戦した「グランドソフトボール」をとくに注目しています。視力に障害のある選手による迫力のある野球によく似た競技です。ピッチャー(全盲限定)がキャッチャーの出す音を聞きとり、投球。バッターは地面をころがる音をたよりにボールを打ち、ランナーコーチの手を叩く音(ベース)めざして走ります。 めずらしく、娘たちに、自分の整理方法を伝授しました。 1年ごとに、刷りものをためる整理法です。 見学した学校の行事のしおり、コンサート、映画、 演劇のチケットとリーフレット、そのほか、 自分がかかわった事柄の刷りものを、 ファイルに順番にはさむだけのことですが。 これが、あとからたいそう役に立ちます。 「刷りものは、とっておくなら場所を決めてとっておく。 とっておかないなら、すぐ『ざつがみ』回収にまわすこと!」 この演説も、ひとつの「小さなしごと」と云えるでしょう。 〈お知らせ〉 「エッセイを書いてみよう」(講師 山本ふみこ) 朝日カルチャーセンター(東京・新宿)の講座のあたらしい「期」 がはじまります。 とてもなごやかなたのしい場です。ぜひふるってご参加ください。 1期6回(月2回)を、1期だけでも継続でも、受講することができます。 日にち:10月10、24日、11月14、28日、12月12、26日(いずれも木曜日) 時間:10:30~12:00 問い合わせ先:朝日カルチャーセンター新宿 03-3344-1945

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