カテゴリ:妄想天国
目を覚まして、まず襲ってきたのは自己嫌悪だった。
甘だるく重い身体もシャワーも浴びてないのにさっぱりとしている肌も、いつもとは違う人に抱かれたのだと思い知る。 何より違うのは、擦り切れて赤くなった手首と、全身に散る赤い痕。 強引に抱かれたのか、そうでないのか判断に迷う。でも―――嫌じゃなかった。 何が「後ろで感じたことがない」だ。 何が「怖いよ・・・」だ。 もし今、昨夜に戻れるのだとしたら、甘い声で媚びていた自分をこの手で殺してやりたい。 酔ってた、というのは言い訳にならない。けど、もし正気だったらサトルにつけこまれることなんてなかった・・・と思う。 隣で寝ている男を起こさないように、そっとベッドを抜け出した。 身支度を整えながら、ちらりと振り返って様子を伺う。 端整な顔も、口を半開きにして寝ている姿は間抜けに見えた。 いたずら心がむくむくと頭をもたげ、あの高い鼻をギュッとつまんでみたいと思った。もちろん、素面の俺はその衝動を押さえ込んだ。 去りがたく、寝顔を見つめる自分を笑ってしまった。 「馬鹿だ、俺。―――あんなのただの代償なのに」 壊したガラス鉢の代償。あれが本当に同等の代償だったかわからない。が、サトルは一度もそのことを口にしなかった。 サービス過剰なほど、優しく甘く抱いてくれた。 あれは、代償というより失恋した俺への慰め、というのが本当だったのかもしれない。 「同情ね・・・・・・」 革靴とサンダルを履いて、静かに降りていく。 階段下のドアの一つを開いて店内を見ると、昨日のままだった。 今日は土曜日だけど、この店は営業しないんだろうか。 使った洗面器とタオルが無造作に置かれ、俺が座っていたイスの前に、あのガラスの靴が鎮座していた。 これがピッタリの相手を探してるというサトル。俺は、その間のツナギといったところだろう。 ふらふらと何かに引き寄せされるように近寄り、昨日のイスに座った。 試してみるだけ、と自分に言い聞かせて、大げさに巻かれた包帯を取り外した。歩いても痛みはないし、血は完全に止まっているみたいだから、大丈夫だろう。 つま先に触れるガラスの冷たい感触に、緊張が高まる。 もし、履けたらサトルはなんて言うだろうか。 しかし、いくらもしないうちに先に進まなくなった。足の幅が広すぎてそれ以上中に入れることができない。 「なんだよっ。大体、こんな足の形の男がいると思うのか?! こんな足の形、絶対外反母趾だし、場合によったら足の骨を削らないと駄目だろ!」 なんで拒むんだ、どうして俺じゃないのか、と怒りにまかせて叩き割ってやりたかった。 「―――馬鹿らし、初めからわかってただろ」 強がりを口にして、入れようとしていた右足戻して、おとなしくサンダルを履きなおす。 しばらくそれを睨みつけていたが、「げ、なんだコレ」と外から聞こえてきた若い男の声に我に返った。 「誰の悪戯だよ。桐下さん知ってんのかな」 カチャカチャと壊れたガラスを片付ける音がする。 この店の関係者かな? 窓に目を向けて確認すると、しゃがみこむ男の後姿が目に入った。そして、外の明るさにハッと時計を見る。 「ヤバイ、遅刻だっ」 表へ出ることができず、俺はカウンターの奥のドアを開ける。 階段の後ろにあった裏口から、逃げるように飛び出した。 ここまで書いて、実は迷ってます。 終わりをどうするべきなの?? 予定通りにすると、自分で書いてて砂を吐きたくなるほど、甘々です。 あ~、なんか暗い話を書きたくなった!! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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