2007/07/06(金)11:00
七夕 ショタカフェ
無計画な彩が持ってきた習字道具には、空っぽの墨汁しか入っていなかった。そこで、買い物部隊となった静姫と絢は、近くの商店街に来ていた。
無事買った墨汁の入った袋を振り回しながら、二人で歩いていく。
途中、商店街に飾ってある七夕飾りを見て、静姫がふんわりと笑った。
そんな風に笑うことが珍しいと、絢が「どうしたの?」と静姫の視線を追いかける。
「これ」
短冊の一枚を指した。
『この幸せがずっと続きますように』
見るからに幸せオーラいっぱいの短冊だった。
「見てるだけで幸せになるね」
「うん」
幸せ一杯の二人は、顔を見合わせてにっこりと笑った。
穏やかに幸せをかみ締める二人とは対照的に、ショタカフェでは彩が不満いっぱいの顔ですずりをすっていた。
「大体、彦星ってカイショなしだよな」
一緒に七夕の準備をしていた奏と由良と圭は、その突然の言葉に顔を見合わせた。
「だってさ、せっかく結婚したのに、遊び暮らしたせいで離れ離れになっちゃうんだよ。カイショないだろ」
「彦星だって、日々透耶さんにおごられっぱなしの彩には言われたくないと思うよ」
冷静な圭の一言に、非難されたはずの彩は何故か胸を張った。
「ふふん、いいんだよ。だって僕はまだ未成年だし。これから先、お兄ちゃんが定年退職したら養ってあげるつもりだもん」
そんなにキッパリと言い切られてしまうと、もうそれ以上は言えなかった。しかし、彩は聞いてくれとばかりに自分の甲斐性について語り始める。
「ちゃんと老後の面倒はみるって決めてるんだ。養ってあげるだけじゃなくて、身の回りの世話とかもしてあげるし。オムツとか代えてあげたら、やっぱり恥ずかしがるかなぁ…」
うっとりと言われて、周りはちょっと引き気味だった。けれどその中の一人は「わかるかも…」と小さく同意した。
「か、奏?!」
まさか、奏までそんな危険思考なのか、と驚く視線の中で、奏は平然と告げた。
「だって、僕が赤ちゃんのときはオムツ代えてもらってたみたいなんだもん。お返ししてあげたい」
純粋な好意らしい。
それを聞いて彩がニヤリと笑う。
「奏、それじゃ甘いよ」
「それ、もういいんじゃないの?」
透明な水からようやく黒くなってきたすずりの中身を指さして、由良が唐突に話題を変えた。
「……由良ってば、最近話しに乗ってくれない」
少し前なら一緒になって奏にイロイロ吹き込んでいたくせに、と邪魔された彩が恨みがましい目を向けると、由良はちょっと肩をすくめた。
「独り身だし、ノロケを聞いてるとむなしくなる」
彩がすっていたすずりを受け取り、ピンクの短冊に向き合う。それは真剣そのもので、他のメンバーだけでなく文句を言っていた彩までも、じっとその様子を見ていた。
すらすらと筆を滑らせた後、由良はガックリと肩を落とした。
一体何を願ったのか、とその短冊を覗き込むと。
「『幸せな結婚』? あ~…でもなんか」
それを読み上げた圭が、そこで言いよどんだ。由良の心情を思いやってのその行為も、彩には通用しない。
「…なんか幸薄そう」
「うるさいっ」
墨汁ではなく、水からすっていたその墨は、まだまだ薄い色にしかなっていなかった。
薄い墨で書かれた願いは、彩の言ったとおり幸薄そうに見えた。もしくは…。
「望み薄い??」
悪気のない奏にトドメを刺され、由良はバッタリとその場に倒れこんでしまった。
「由良、そんなに落ち込むなって。静姫たちが帰って来たら、墨汁で上から書けば…」
必死でフォローをする圭を、机に突っ伏したままの由良がじっと見上げる。そのふて腐れた視線に圭は口を閉じた。
「いいよ、なんか再婚になりそうな気がする」
七夕、ショタカフェバージョンです。
準備をワイワイ楽しくやってそうで、書いてみたいなって思ってたんですよ~。
当日はどうしようかなぁ…