おるはの缶詰工場

2009/01/22(木)15:13

てふてふ

妄想天国(70)

 蝶はいいよなぁ…。  どんなに花を転々としても許される。  あっちの綺麗な花、こっちの可愛い花。蜜をすすって味を比べて、やっぱりあっちの花かな? とフラフラしても許される。  間違っても、殴られることはないんだろうな…。  じんじんと痛む頬を手で押さえたまま、俺は現実逃避に努めていた。  しかし、それが許されるほど状況は甘くはなかった。 「ちょっとっ、話聞いてるの?!」  人通りの激しい駅前で、人目をはばかることもなく3人の女性が、しゃがみこんだ俺を取り囲んでいた。  どの子も一度ならず関係をもった女性で、やっぱり友人同士だったらしい。 「いったい、誰が本命なのよ!!」 「本命って…みんな遊びだけど?」 「サイッテー!」  正直に答えたのに、お気に召さなかったらしい。  ものすごい形相をした3人は、さんざん俺を罵倒した後、思いっきりバッグで殴って去って行った。 「いてぇ…」  ちょうど金具があたって、頬に血がにじんでいた。  自分が誇れるのは顔の良さぐらいと自覚しているだけに、しばらく女をひっかけるのは難しいなと首をすくめる。 「遊びがなんでいけないんだろうなぁ」  本気なんて恐ろしいじゃないか。面白おかしく、楽しくみんなで遊べばいいのに。 「相変わらずのいい加減さだな」  聞きなれた声に、振り返ることもなく「うるせー」と返事をした。 「ほら、こっち向け」  声と同時にあいつの指が俺の顎をとらえた。くいっと顔を向けられると、あいつの顔が見えた。  厭味なほど整った顔に、呆れたような笑みが浮かんでいる。  仕方ない子だな、という保護者のような笑みの下に、執拗で残忍な顔を隠していることを、俺は知りたくもないのに知っていた。 「私の好きな顔に傷をつけるなよ」  頬の血を優しく拭われた。 「うるせー」  高校時代。先輩後輩という間柄が変わることなく続いていくのだと思っていたのに、「好きだ」と告白されて変わってしまった。  断って、避けて、逃げたのに、こいつはどこにでもいて、いつまでも俺を追ってくる。  今日だって居場所を教えてないのに。  いい加減、こんな状態も慣れた。 「さ、ご飯でも食べに行くか」 「うるせー」  三度同じ答えを返した俺に、ニヤリと本性をのぞかせた笑みを浮かべて恐ろしい提案をした。 「なんだったら、私の部屋でもいいが」  ヤツの巣に?? 「絶対いやだ!」  入ったら最後出てこれない。  そんな確信が俺の中にあった。  わずかに青ざめる俺の顔を見て、うっすらと微笑んでいた。  逃れようともがく蝶を見る、蜘蛛のような視線で。  もしかしたら、もうすでにヤツの巣に捕らえられているのかもしれない…。 ……本当は50音にアップするつもりだったのにぃ。 中途半端な長さで、しかもこれ以上どう話を膨らませばいいのかわからず、つい日記にアップ…。 「てふてふ」というタイトルから作ったお話なので、本当はもっと軽い男が本気の恋を見つけるようなお話にするつもりでした。 が、書いてみればこんなオチ……。 うぅ~、逆視点の「蜘蛛」も書いてみたい!!(笑) ……蜘蛛の古い言い方ってなんだろ…。

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