超大作 完
国宝 下 花道篇 (朝日文庫) [ 吉田修一 ]価格:880円(税込、送料無料) (2025/10/1時点)楽天で購入血筋が強い歌舞伎の世界において、どう抗っても手に入れられない血筋と戦う喜久雄とどこまで逃げてもつきまとう血筋にもがき苦しむ俊介。物語の中で歳を重ね、所帯を持ち歌舞伎の世界においても相応の立場となった2人の物語がはじまる。娘や嫁、母も交えた家族の絆が崩れ、ヒビ割れそうでもなお歌舞伎の世界における『家』をそれぞれの立場で守り抜くストーリーも交えながら、喜久雄と俊介それぞれの舞台で魅せる芸はどんどん円熟味を増していく。そして遂に17章で俊介が先に逝く。その知らせを聞いた喜久雄が舞台の上でまるで俊介に問うようにつぶやいた「どない思う?....なぁ、俊ぼん」のセリフは切磋琢磨していた若い頃の稽古場の風景を一気に連想させた。俊介亡き後の喜久雄は良いも悪いもひとり旅。歌舞伎界において押しも押されもせぬ唯一無二の存在として確固たる地位を築く一方で、その苦労や苦悩を分かる存在もいない孤独なスーパースターでもあった。そこからは自分との戦い生と死、実と虚の狭間でもがく中で歌舞伎役者として最高峰の境地に達する。終に夢と現実の境目がわからなくなった喜久雄の最期はまさに舞台で己のすべてをぶつけてきた歌舞伎役者としての究極の境地だったのではないだろうか。この本に登場する歌舞伎の演目を知っていたり、見たことがあればもっと違う視点で読み進めれたのではないかと後悔させられた。この「国宝」を歌舞伎の演目として喜久雄と俊介が魅せるとどんな舞台になるのだろうか。