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カテゴリ:日本酒・酒類
日本酒の味に限らず、食べ物の味を表現することはたいへんに難しい。味を文章で表現できるようになったら、一流の物書きという言い方がある一方、ほとんど味を表現せずにすましている作家もある。テレビの食べ物番組を観ていると、「美味し~い」のワンワードと精一杯の「表情」しかできないレポーターが多い中で、これは本当に味がわかっているな、と思わせる表現ができる人もいる。
日本酒の味を表現するとき、現品に的を絞ってストレートに表現するのが理想的なのだろうが、その表現には業界用語というか、一般に馴染みの少ない言葉が多い。この独特な表現を覚えるには酒造りを経験するか、酒造り経験者と酒を酌み交わしつつ、うまく疑問点を質問するしかない。 それがだめとなれば、道は2つだと思う。1つは日本料理など、料理との組み合わせで表現することである。「酒文化」と言ったとき、料理以外も入ってくるかもしれないが、普通の人にとっては料理が大きい部分を占めるだろう。酒に合わせて料理を選ぶか、料理に合わせて酒を選ぶか。 もう一つは化学に頼る方法である。しかし、これは業界の専門語を覚える以上に壁が高いかもしれない。ただ利点もある。化学が得意な人ならわかりやすいし、分析器械で客観化することもできる。 とはいうものの、日本酒の味を形成する物質は数知れない。そこで化学的知識に基づき、「酸度」や「アミノ酸度」など、味覚物質の取りまとめを行う。「日本酒度」という日本酒の比重を測るやり方もある。しかし、取りまとめたら取りまとめたで、表現がかえって曖昧になる欠点がある。そのため消費者に誤解が生じているのが実情である。 一方で特徴的な風味を持つ一物質を取り上げ、その物質の含有量で日本酒を評価することも行われる。たとえば、酢酸イソアミルはバナナのような香り、カプロン酸エチルはリンゴのような香り。果物のような香りは、吟醸酒の一面を表現する性質である。 これらの積み重ねを経ても、最終判定は、味覚物質と味の関係がわかる、味覚の鋭い人の感覚に頼らざるをえない。化学を使うから科学的なようで結局、表現に感覚的な部分を残している。 しかし、日本酒の味表現とは別に、消費する人の個人差を無視することはできない。われわれは各自が持つ「ベロメーター」(ベロとは舌の意味)に自信を持ち、おのれの酒を選ぶべきだろう。そのとき最も多く消費される日本酒のタイプは、時代により、地域により異なるように思える。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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