臨床の現場より

2007/10/10(水)21:37

がん治療・統計のマジック

医療行政(31)

 あちらこちらの医療系ブログで癌の5年生存率について分析がすすんでいるようです。先日の朝日新聞に掲載された記事を受けてのことで、よっしい先生(よっしいの独り言)やあつかふぇ先生(さあ 立ち上がろう)、その他のたくさんの先生方が詳細なレポートをまとめています。  head&neckの病院も地域のがん拠点病院に指定されていますし、専門は頭頚部の癌ですから、それなりに興味をもって新聞記事とブログの記事を拝見しました。新聞記事では、施設ごとに差があり、いかにも患者さんが施設を選ばないと予後が変わるような見出しでしたが、医療系ブログでしっかりとした分析をされたものを見ると、「癌の治療はどこの施設で受けても変わらない」ということになりそうです。  予想通りというか、日々の臨床で感じているままの結果となりました。だって、よっぽどの不真面目な医師で無い限り、自分の専門とする分野の癌の治療を勉強しないはずはありませんし、この情報化社会の中、狭い日本で極端な差が出るとは思えません。がんセンターで手術を受けようが、大学病院で受けようが、市中病院で受けようが大した変わりは無いのです。  では、なぜ朝日新聞はわざわざ患者に施設を選ばせるような見出しをつけているのでしょうか?邪推ですが、市中病院より、がんセンター等の病院に患者を誘導する意図があるのではないでしょうか?  はっきり言っておきますと、がんセンターは公立病院ですから、サービスという面ではやや立ち遅れています。そして、がんセンターで働く医師の給与は、圧倒的に低いのです。(もちろん、腕のいい医者がたくさんいますが、みな我慢して働いていると聞きます)彼らは、ただただ癌と戦いたいがために、薄給の待遇に耐え、症例をこなしています。がんセンターに対するいろんな批判がありますが、待遇の悪さは医師ならば誰しも否定できないと思います。そして、昨今の情報化、セカンドオピニオン流行り、医療崩壊がこういうがん拠点病院の多忙に拍車をかけ、現在すでにキャパシティの限界に近づいていると聞きました。そんなところに、今以上の患者さんが押し寄せたらどうなるか。。  報道機関の皆様には、ぜひ、ご自分たちの文章が社会におよぼす影響力について思いをはせてから文字にしてもらいたいものです。そして、専門的なデーターを報道するときにはせめて専門家に分析をしてもらってから正しい印象を与える文章を掲載することを望みます。  医療現場の声や現状を正しくすくい上げる報道にはなかなかお目にかかれないのでした。

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