臨床の現場より

2007/11/12(月)21:47

なぜ忙しい?

医療行政(31)

 学会が終わり、またいつもの一週間が始まります。  head&neckの専門は腫瘍ですが、そればかり診ているわけではなく、週のうち1回は初診外来、2回は一般外来、そして腫瘍専門は一日だけです。つまり、外来の3/4は一般患者さんを診察しているわです。むしろ、自分の専門分野のみを診ていればいい医者は少数派で、ある程度の幅をもって外来診療をすることは日本では普通のことです。制度としては諸外国から遅れていますし、医療資源の無駄遣いであるのは明白ですが、悲しいかな現場のマンパワー不足と、国の無策のせいで一向に改善されません。  とにもかくにも、月曜日は朝から初診外来を始めます。一応大病院なので、それなりに紹介患者さんも多く、病院でないと対応できない患者さんが大勢受診されるのです。・・・が、実際、「なんで?」と首を傾げざるを得ない患者さんも大勢お見えになります。 ここで、head&neckが診察した本日の患者さんの内訳をごらんいただきましょう。 総初診患者数:38名 そのうち、紹介状を持参された患者さん18名  その18名のうち、  CT、MRI等、病院でないとなかなか難しい検査を予約した患者さんは10名。  処置が必要であった緊急疾患(鼻出血など)1名。  入院の適応1名。  手術目的の患者さん4名。 つまり、18名のうち16名、89%の方が病院での医療を必要としたと考えられます。 一方、紹介状を持たず、いきなり外来に来られた患者さんは20名。  このうち診察のみで次回予約なしの疾患(のどの違和感、前からの耳鳴り、難聴等)6名。  軽い処置のみ(耳垢清掃、鼻清掃等)3名。  処方は近医で充分可能なもの(風邪、アレルギー性鼻炎、軽度中耳炎、湿疹等)9名。  近医通院中だが不安になって来院されたもの2名。 入院、検査の適応は、なんと一人もいませんでした。  もちろん、紹介状なしでも病院でしか対応できない疾患や、重症患者さんがお見えになることもあり、本日はそれが無かっただけなのですが、今日のような外来患者構成になる日は多く、このことは、開業医の先生がいかに真面目であるか、また、きつい言い方ですが素人とプロの判断がいかにかけ離れているかを証明しています。  「だからこそより良い検査機器のある病院にかかって安心したい」という言い分も理解は出来ますし、そういう不安を解消するために医療がある一面は否定しません。しかし、医療の高度化に伴う現場の業務量の増大に反する、国際的に見ても証明された日本の医師数の少なさはそれを許容できないところまで来ています。  限られた医療資源を有効に使うためには、「不安の解消」よりも、「疾病の解消」に投資しなければなりません。この考え方を突き詰めていくと医療機関へのアクセスの制限となります。アクセス制限をいかに実現するか・・ここに現場、政治のジレンマがあります。  次回に続くのでした。

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