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カテゴリ:診療
癌を摘出すると、その部分の臓器は欠損します。head&neckの専門分野は頭頚部ですが、この部分は特に欠損臓器の再建が難しい場所です。例えば癌で喉頭を摘出すれば声は出なくなりますし、舌を摘れば発音や嚥下に影響が出て、上顎や下顎を摘出したら咀嚼に影響がでます。こういった機能的な面だけでなく、露出部なので外見的な面も考え合わせて再建しなければならないので、手術には非常に時間がかかります。
かつて、再建に使用していたのは有茎皮弁といって、血管の入った組織を含んだ部分を肉ごと移動して欠損した部分を覆っていました。現在では多くは遊離皮弁といって、一度切り離した組織の血管を顕微鏡でつないで欠損部を再建する方法が主流で、昔に比べずいぶんと自由度も上がり、質の高い再建が出来るようになっています。 ただ、この遊離皮弁という方法はつないだ血管が詰まることがあり、どんなに上手な医師がやっても数%の確率で移植組織が壊死してしまいます。リカバーするためには早く発見しなければならないので術後はICU管理となり、非常に手間がかかりますから、これが出来るのは比較的大きな施設に限られます。こんなところにも時代の流れによる医療の高度化、複雑化を感じます。 以前はhead&neckも再建をしたり、血管吻合の訓練もしていた時期がありますが、現在では当院に腕のいい形成外科の先生がいるので、再建はお任せしています。一人で全部できればよいのですが、何しろ手術時間が10時間を越えることもあり、質の高い集中力を保つのはなかなか難しいし、再建をしてくれる先生が上手ならば摘出と再建は別の医師が行ったほうが効率的です。 一口に形成外科といっても色々です。テレビで宣伝している美容外科も形成ですし、火傷や口唇口蓋裂の手術も今では形成外科の医師が専門分野としています。美容に関しては自由診療で、その是非についてとやかく言う気はありませんが、いわゆる「病気を治す」という分野ではないので一般の医師とは切り離して考えて頂きたいというのがホンネです。一般病院に勤務する形成外科、それも再建のできる形成外科医は貴重で、その先生の技量によってどこまで摘出できるか、さらには術後の患者さんの生活の質にも関わってきます。 先日行った手術でも、のべ15時間に及ぶ手術時間のうち8時間はオーバーラップして手伝っていただいて、お互いへとへとです。そんなことを月に1~2回やっていると、徐々に相手のタイミングや癖がわかり、最近では息の合った手術が出来るようになってきています。こういう集団を形成することが、チーム医療という言葉の本質だとおもっている今日この頃なのでした。 ←参加中、一日一回のぽちを。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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