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臨床の現場より

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カテゴリ:診療
 がん治療は集学的治療といって、化学療法(抗がん剤)、放射線、手術の3つの治療法が組み合わされることが多いのですが、この組み方やどれを治療の根幹とするかにはいろいろな変遷があります。ここ数年の頭頸部がんの治療の流れは、縮小手術に向かっています。
 もともと、頭頸部がんの手術治療はかなり失うものの多い分野です。喉頭や下咽頭癌を摘出すると声は失われますし、進行した上顎癌を摘出すれば顔の形が変わったり目を失ったりします。そうして、病気が治癒すればまだしも、癌である以上はかなりの確率で再発しますから、患者の側としても医師の側としてもやり切れません。そういったことを何例も経験してゆくと、言葉は悪いですがある程度のところで根治はあきらめてなるべく手術等はせずにもたせるという考え方が出てきます。
 ある意味、この選択肢も正しいのです。手術は、一時に厳しい身体侵襲を伴います。すでに末期の患者さんにとっては、それを乗り切ることすら難しい場合もありますし、死期を早めてしまうことだってあります。それよりは抗がん剤と放射線で癌の勢いを減らし、体調を整えたほうが元気で長い間入院せずにすごせることだってあるのです。
 しかし、残念ながら放射線と抗がん剤で進行した癌が治るのは、ごくごく一部の例外的なものを除いてほとんどありません。逆に言うと、手術をしないと治癒を目指せない癌は依然として多いのです。どういう治療法がもっともよいかは、結局のところ一言で言えば「現状での癌の進行度の正確な診断」に尽きます。
 癌の現状を把握したら、それに対する治療法を医師の方から患者さんに提示します。このときにも、話し方にはかなりの注意を要します。
 たとえば、ある癌に対して
<1>手術をして放射線を併用すると5年生存する確率は60%
<2>抗がん剤と放射線のみで治療すると5年生存する確率は40%
だったとしましょう。(判りやすくするために話と数字は単純化してあります)
<1>の場合は、声がでなくなります。
<2>の場合、音声は温存できます。
これは、いわゆるエビデンスに基づいた話し方ですが、head&neckの経験上この話し方では患者さんは圧倒的に<2>の方法を選ぶ方が多いのです。事実だけを淡々と述べると、人間は多くは物事を自分にとって都合のよい方向に捕らえるようです。患者さんの心理としては、「手術をしても4割は駄目、それなら4割の確率でも声が出せるほうがいい」とその時点で考えるのでしょう。一方、我々医師としては患者さんに治ってほしいわけで、当然治癒率の高い方法を薦めることが多く、ここにかなりの葛藤が生まれます。さらにいろいろと経験をつんでゆくと、声を失っても根治した患者さんが「治してもらって生き延びてよかった」と感謝してくれる場合が多く、どうしても患者さんに生きていて欲しくなります。癌を告知された時点では患者さんの精神状態はまともではありませんから、しっかりと話をして、「私はあなたに長生きして欲しい」という気持ちを伝えてあげることも重要になってきます。

 少し、言いたいことがずれました。治療の「流行」についてです。縮小手術とは、たとえば頸部で言えば機能を温存して悪いところを切除して行こうという方法です。これについては、現在学会でさまざまに議論があり、現場は混沌としています。
 話が長くなりそうなので、次回につづくのでした。


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最終更新日  2008.09.25 20:30:55
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