2017/03/09(木)09:13
明石中宮 -6-
あるしめやかな夕方、
明石の上は明石女御に、おじい様の明石入道のこと、
養母・紫の上の深い愛情など「いと多く、聞え給ふ」多くの事を
お話申し上げます。
明石女御は、涙ぐみながら聞いていらっしゃいます。「『いとあはれ』とおぼえて、御額髪の、やうやう濡れゆく御そばめ、
あてになまめかし」たいそう痛ましいこととお思いになり、
御額髪が涙に濡れていく横顔は、上品でうつくしいのです。「かく、睦ましかるべき御前にも、常に打ち解けぬさまし給ひて、
わりなく物づゝみしたるさまなり」 実母として睦まじく、内輪のお話する時にさえも、明石の上は
いつも打ち解けることをせず、
遠慮深いご様子を崩さないのでした。