しぐさの美
小磯良平の作品に「洋裁する女たち」という油彩画があります。 3人の若い女性たちが、裁縫台の前で仕事をしている風景です。 画面左手にはきれいなピンク色の、ウエストをしぼったかわいいドレスを着ている女性が、左手を裁縫台に軽くついて、何かをしています。 右手には黒っぽい服を着た女性が二人、一人は裁縫台に向かって座り、右手で縫い針をつまんで、縫い終わりの糸を歯で切り取ろうと布を口元によせて、軽くうつむいています。 もう一人は仮縫いでもしているのでしょうか。右手でピンをつまみ、身体を軽く傾け小首をかしげて、覗き込むような格好をしています。 3人ともその表情ははっきり描かれていませんが、彼女たちの針を持つ二つの右手と自然に置かれた左手の、何気ないそれらの「しぐさ」に、どことないうつくしさと優雅さが感じられる絵なのです。 仕事をしている若い女性の、自然な身のこなしの中にある優しくうつくしい「表情」を、作者はこの絵に凝集し留めたのではないか、と私は感じるのです。