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青春の光と影 恋

誰もが、一生を左右するような恋をいくつかしているのだろう。

そして、その出会いがいつも偶然とは思えない・・・。

人の生き方を左右するような初めての恋も亡くなったかみさんとの出会いも。

いつも誰かが、どこかでで配慮してくれたのではないかと思うほど不思議な偶然が重なっている。

長崎から福岡に初めて出てきて大学の門をくぐった頃の出来事。

憧れだった工学部に入った喜びは5月頃になると,もう薄らぐ。

すでにどこか目標を達成したあとのむなしさがあった。

”Man is a fliying arrow"

「女は幸せをコンクリートで固めようとするが、男にとって幸せは、手中に入った瞬間から色あせてくる。

また次の目標に向かって飛び立つしか道はない。」

これはドイツの格言。

次の目標は自分でさがさないといけない、が見つからない。

大学を卒業して社会人になってもその先には何もないように思えた。

日々がむなしいので、手当たり次第に本を読んだ。

まず中島敦のカメレオン日記に同じ思いを発見した。

 「俺のまわりには蛙の卵を包むゼラチンのようなものが取り巻いていて、

 外界との接触をさえぎっている。俺には生きているという実感がない。」

フランクルは「夜と霧」の中で言う。

 「いつ死がやってくるかしれない絶望の中でも、収容所の中の木が芽吹くと

 生きているという歓びを感じた。生きている意味はそういうところにも実在する。」と。

シュバイツアーは著作で述べる。

 「子供の生きる歓びにあふれた表情をみてごらん。大人になって虚無的になっている

 貴方たちにも、あの歓びは持続しているんだよ。気づくことを忘れてしまっただけだ。」と。

そんな頃、5月の大学祭で学生劇を見た。

生きることがわからないと嘆く男をひきとめようとする少女が舞台にいた。

一目見ただけで、ひきつけられた。色の白いほっそりした、

すきとおるような声をもった少女だった。色でたとえればブルー。

同じ時、入学した文学部の学生だと誰かが教えてくれた。

あんな少女と恋をしてみたい、遠い夢のような思い。

それから2年がたった。

その頃、四国の病院に従兄が医者をしていて正月に遊びにくるように誘いがあった。

授業もバイトも終え、年末の大分線の鈍行列車で四国に向かった。

そしてトイレに行こうと列車の中を歩いていたら、長い鈍行列車の同じ車両にその少女が「いた!」

ときめく心を抑えて声をかけた。

彼女は支線のある町のお寺の娘、帰省するところだった。

それから駅につくまで、夢中でいろんなことを語った。

そして、なんの約束もせずに別れた。

本学と言う専門課程に入って忙しくなってきた頃。工学部の図書館で、

彼女の姿を時々見かけるようになる。

遠くで見る笑顔がはなやかだった。

いっしょに、同じ図書館にいただけで幸せだった。

そしてある日声をかけてブルガリア合唱団の演奏会に誘った。

「きっと、もう一度誘ってくれると思って待っていた。」と彼女は言った。

それから、彼女が一緒に住んでいた外人女性教授の官舎に招かれて

彼女の料理をご馳走してもらったりした。

しかし結局ふたりが話す事は生きる意味が見つからないということ、

いくら会っても、話はその先には行かなかった。

待ち合わせ場所を間違えて、ふたりとも電停で1時間待っていたり、

いろんなことがどこかかみ合わなくなって、紆余曲折して・・・別れた。

そしてそれから4年たって大学院を卒業する頃、ふたたび出会って話をするようになった。

彼女には、決心しかねているフィアンセがいた。

ある日、公園での話しに夢中になって夜中2時近く、終電もなくなっていた。

近くの宿で夜を明かした。

翌朝、別れる時、彼女が言った。

「自分で決心がつかなかったから、奪って欲しかった」と。

彼女とのことでは辛いことが一杯あった。

最初から、一緒に生きていく人ではないような予感はしていた。

けど、今でも、あの、同じ日、同じ時刻のあの長い鈍行の同じ車両で

出会えたことに、とても感謝している。

今でも、あれがとても偶然だったとは思えない。


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