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ある日ぼくがいた場所

その2.始まりの1週間を終えて

その2.始まりの1週間を終えて


 おれと瑞姫は、とにかくへばっていた。
 抽選議院は新憲法が発効した2020年に参議院に代わる存在として始まっていた。抽選議員の任期は一年。各議員は男女の10代から80代までの計16名が抽出され、再選は無し。
 おれ達で3代目だったが、やはりまだ10代の議員は脚光を浴びやすく、特に見た目が完全に白人の金髪女性で抜群のプロポーションを持つ瑞姫なんかは獅子姫とかライオン・クイーンとか早くももてはやされていた。
 対というかついでといった感じで虎王子とかタイガー・キングとかあだ名をつけられるまでは良かったが、今年度の法案審議で一番注目されてる「人口集約法」が絡んできてややこしくなっていた。
 おれの部屋に瑞姫が転がり込んできていたが、二人とも別々のソファに寝そべったままで、AI達はそんな二人を生温く見守ってくれていたが、30分もそのままだとさすがに声をかけてきた。
「お食事になさいますか?お風呂の準備もできてますが」
 瑞姫が反応を示さなかったので、仕方なく起き上がり、メシの指示を出し、おれは風呂場へと向かい、服を脱ぎ捨てて浴室に入ると忘れずに引き戸に鍵をかけた。
 議員宿舎に着いた当日に、自分の両親からも瑞姫の母親からも、爛れた関係が表沙汰にならないよう注意されていた。小鹿なんかは今にも押し掛けてきそうなのを思いとどまらせるだけで一苦労だった。

 爛れた関係になったことがないとか表沙汰にならなきゃいいのかい!?といった辺りは華麗にスルーされていた。

 適当に体を洗い流して豪勢な湯船につかり、風呂場の空間に話しかけた。
「AI、旧普天間飛行場と海兵隊再移転計画に関する最新の記事とアンケート結果を表示してくれ」
 間を置かず、目の前の空間が仮想ディスプレイで埋め尽くされた。その中から気になるものに指で触れて側に引き寄せ、拡大したり縮小したりして並び替えていく。
「米海兵隊の一部が北陸道にもねぇ・・・。さらにその一部は輪島市にもか。レーダーサイトがあるだけじゃなく、洋上難民施設もあるからなぁ」
 全国各地の難民収容施設は百以上有り、北陸道沿岸だけでも7カ所有った。ただし旧福井県沿いの原子力発電所が集中している地域の沿岸の洋上施設は他所へと移設させられていたが、それはそれで新たな悶着を引き起こしていた。
 旧新潟県の地域にも原子力発電所はあったので、それらの中間地点に米海兵隊と全天候型のヘリ部隊の展開が予定されていた。総兵員数、500。あまり多くも無いかも知れないが、決して少なくもない。
 おれの地元の輪島市近郊にも、分遣隊が常駐する予定らしい。
 そして市民記者からのレポートによると、全国各地の中国系難民達の反応は、一様に否定的らしい。全世界を2015年に襲ったLV2、第二次ラーニング・ウィルス災害は中国にも甚大な被害をもたらし、指導層の大半を失い経済的な成長も止まってしまった中国は分裂を余儀なくされ、その煽りを食らった中国人の少なからぬ部分は、軍事力や経済力といった総合的な国力を追い抜かされかかっていたアメリカによる陰謀だと信じていた。
 おれは自分の地元の新聞のアンケート調査に目を通しながら風呂から上がった。米海兵隊受け入れには慎重な声が多かったが、難民の陸地受け入れを許容するのであればやむを得ないという意見が半数以上だった。
 おれが着替えてからリビングに戻ると、食卓には夕飯が二人分揃えられていたが、瑞姫はソファで、やはり仮想ディスプレイを並べて見入っていた。
「メシ、食わないのか?」
「ん、食べようか」
 消える間際の新聞の見出しから、瑞姫も自分の地元の記事を読んでいたのがわかった。
 沖縄と石川の料理を交互に供してくれていたAI達は、今夜は割烹料理らしきものを食卓に並べてくれていた。
 何が何ていう料理だか聞く気も起きずにとりあえず端から箸を付けていくと、瑞姫が話しかけてきた。
「研修、やっと終わったっていうか、もう終わっちゃったというかだね」
「それは同感だ。あとは習うより慣れろってのもすごい教育方針だよな」
「教育っていうか、現場主義なんだろうけど」
「何かご不明な点がございましたら、お気軽に何でもお尋ね下さい」
 AI達の声を聞いて、おれと瑞姫は苦笑した。各抽選議員に付けられたAI:人工知能に聞けば、法案審議や過去の議事録や予算編成、憲法や条約や法令など、何でも答えてくれた。
「とりあえずは、選挙議院から送られてきた法案に、抽選議員の2/3が賛成しなきゃ成立しないことだけ覚えておけばいいんじゃないの?」
「決着がつかなければ、選挙議員の間から選ばれた抽選議院議長の票がどんどん重みを増していくことも忘れないでおけよ」
「まぁ、細かい仕組みの話は後回しにしてさ、私の地元、けっこうな騒ぎになってるみたいよ。AI,お願い」

 食卓からリビング方向の中空に大画面が現れて、ニュース番組が映し出されていた。

「かつて日米間を揺るがせた普天間基地移設問題。2010年5月の交渉期限間際に移設先として、旧沖縄県と鹿児島県の県境にある双子島が名乗りを上げました。
 日米間の協議で移設が翌11年には決定し、12年までには環境調査を終え、メガフロート基地の建設が始まりました。
 日本の総力をつぎ込んだ半係留型施設はわずか3年で完成し、2016には米海兵隊の大半が移転を完了しました。
 しかし米政府と日本政府は、増加の一方を辿る中国からの難民の漂着と受け入れ体制の整備に伴う安全保障上の措置として、旧普天間基地の再移転を決定、発表しました」
 ここで瑞姫の指示でAIは映像を早送りにして、やがて通常の再生速度に戻した。
「元々の人口が2500人足らずで、65歳以上の高齢者が7割以上を占めていた双子島では、基地閉鎖に伴い従業していた若年人口がいなくなれば、いずれ限界集落として消滅するのは間違いありません。しかし今年の国会で審議される人口集約法の審議如何によっては、その時期は大幅に早まることでしょう」
 ここで映像は途切れた。
「それで、お前のジジとババは何て言ってるんだ?」
 沖縄の双子島は、瑞姫の沖縄での住所、母方の祖父母と住んでいる故郷だった。
「基地が移転してしまうのは国やアメリカさんの都合だから仕方無いけど、自分達は死ぬまであの島で暮らしたいってさ」
「そうか」
「そうか、って、それだけ?」
 非難するような眼差しを受けて、おれは付け加えた。
「それだけじゃないけどさ。人口集約法は、巷で言われてるような移住を強制する法律じゃないよ」
「でも、公的なサービスとかインフラの維持の提供とかは打ち切られちゃうんでしょう?」
「それを最終的に決められるのは国家政府でなくて道州政府だし、各自治体が維持に必要な費用を提供できるなら、一方的に打ち切られはしない」
「でも、あの島に、それは無理よ。南海道政府だって、基地の無くなったあの島に住民を張り付けとく意義は見い出せないでしょ?」
「それで、瑞姫はどうしたいんだい?」
「まだわからないわよ。自分に何ができるのか、自分が何をすべきなのか、どっちもわからない」
「でも、自分がしたいことはわかってるんだろ?」
 瑞姫はうなずいて、逆に問いかけてきた。「あなたの方はどうなの?受け入れ先候補地でもあるんでしょ?」
「こっちは、いますぐにでも自治体としての存続が問われてるわけじゃない。だけど、難民達の陸地受け入れ判断とか、アメリカに対する感情への配慮とかもあって、一筋縄じゃいかないだろうね」
「小鹿さんも、黙ってはいられなそうね」
「雪乃どうこうよりも、その両親が、だけどな」
「どうだかね・・・」

 瑞姫の懸念はその翌日には的中することになったのだが、もう疲れて眠くなっていたおれにそこまで心配する余力は残されていなかった。


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