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ある日ぼくがいた場所

その4.双子島への訪問

その4.双子島への訪問


 予想通り、難航した住民集約法の審議の合間を縫って、抽選議員達は双子島に視察に訪れていた。
 提案したのは、瑞姫。
 過半数の議員の賛成と議長の承認の元、一泊二日の強行スケジュールは組まれ、初日は基地施設の視察、2日目が住民達との集会に参加という予定だった。
 その晩、おれは瑞姫の祖父母の家に泊めてもらった。もちろん誤解を生じないよう、他の数名の議員も同行してたけど。
 他の議員達が三々五々に散った後も、島の斜面から海を見下ろす縁側で、おれと瑞姫と祖父母は語り合った。
「光希君は、二度目だっけねぇ。ここに来るのは」
「はい。前は瑞姫のお母さんと一緒でしたけど」
「あれも忙しくて、勤務先をなかなか離れられんみたいでね」
「あっちも、いろいろありますから」
「そうらしいねぇ。ここにいる兵隊さんの一部も、そこに行くらしいねぇ」
「まだ決まったわけじゃありませんけどね」
「基地が無くなれば、この島もおしまいじゃねぇ」
「もともと無くなってたかも知れん集落が寿命を迎えるだけじゃって」
「でも、そうならないかも知れないでしょ?」
 瑞姫の言葉に、祖父母はやんわりと答える。
「国同士が決めたことなら、そうなってしまうだろうよ」
「あたしらはもう覚悟決めとる。国や道州政府がどうしようと、死ぬまでここに住み続けるっての」
 瑞姫と祖父母の話し合いは何度か平行線を辿ったが、お互いの意見は変わらないまま祖父母は部屋に引き上げていった。

「さて、私らもそろそろ寝ようか」
 瑞姫は立ち去ろうとしたが、その手を掴んで引き留めた。
「お、何?いよいよそういうことなの?でも今晩は避けた方がいいんじゃない?」
「まじめな話があるんだ」
 瑞姫はまたすとんと、さっきよりもおれの近くに腰を下ろした。
「こないだ、あの小鹿親子が執務室に来たって話、しただろ?」
「うん」
「その時、雪乃から聞いたんだ。お前に、その・・・、婚約者がいるって」
「いるよ」
 あっけなく肯定されて、おれは動揺した。
「そ、そうなのか・・・?」
「そう」
 目の前の夜景から、星の明かりも、海に浮かぶメガフロートも消え去って、何も見えなくなっていた。
「ミッキーに対する雪乃さんみたいな存在だよ」
「え?」
 いきなり何を言われたのか理解できなかった。
「基地の中で育った幼馴染みみたいなもんでね。死んだダディー(父親)が相手の親と勝手に決めた婚約なの」
 おれは、少しだけほっとして言った。
「じゃあ、そんなの、今じゃ有効じゃないんだろ?」
「ううん」
「本気で言ってるのか?」
「少なくとも、死んだダディーは本気だったし、グランパはダディーの遺言みたくその婚約を守ろうとしてる」
「お前は、お前自身はどうなんだよ?」
「どうなんだろうね。少なくとも、彼は私のこと、本気で好きでいてくれてるよ」
「まんざらじゃないってか?」
「そうだね。そうとも言えるよ」
「そうかよ、そりゃ良かったな!」
 おれはかっときて、ポケットに丸めていた紙を瑞姫の目の前でびりびりに破いて、そのままその場を去った。

 後ろは振り向かなかった。


 その翌日、基地移転賛成派と反対派の集会それぞれに参加したけど、内容が記憶に留まることはなかった。
 おぼろげに、基地移転は仕方無いとしても、その後の島の住民の生活を補償しろという声が多かった気はした。

 抽選議員宿舎に戻ってから後、瑞姫がおれの部屋に転がり込むことは無くなった。


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