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ある日ぼくがいた場所

2-1 陛下からの依頼


陛下からの依頼


 感情固定装置取締法の結審から2週間が過ぎようとしていた。国体維持
関連3法案の審議開始前に、法案の内容について議員達が十分時間をかけ
て検討できるようにと準備された期間だったが、おれはその間に、自主
休学の聴講生扱いとなっていた大学にちょくちょく顔を出すようになっ
ていた。

「議員宿舎と執務室と議事堂の間を往復してるだけじゃ息が詰まるし視
野も狭くなっちゃうよ」というレイナの助言に従った為でもあった。
 かく言うレイナは、分刻みのスケジュールで各省庁や各国政府や国連
各機関などを行き交っていた。当人曰く、毎日検査を受けて大丈夫なこ
とを確認しているらしいが、おれのみならず世界中から気にされている
そうだ。
 大学では身分を隠すことも出来たけれど、自分の後に続くかも知れな
い議員の為に、顔も身分も晒した上で大学の講義などに参加することに
した。そうでないと息抜きにもならないし、発言も出来ないのだから。

 大学では当然、抽選議院での審議や、先日結審したばかりのELに対す
る判断やこれから審議する人口維持関連3法案に対する質問の集中砲火
に合い、自分の手に余る時は教授に助け舟を出してもらったりもした。

「いずれ中目議員との間に子供が出来たら、人工子宮で育てるのですか?」
 という質問は何度も受け、その度に、
「レイナは自分自身で育てるつもりだと言っています」
 と答えたりした。まだ、妊娠の事実は一般に公表されてはいなかった
から。
「国民全員に精子と卵子の提供を義務付けるのは行き過ぎじゃないんで
すか?」とか「白木議員は、自身の精子を供出する事に抵抗は感じない
んですか?それが見知らぬ誰かの卵子とかけあわされて、見知らぬとこ
ろで自分の子供が出来ることに抵抗は感じないんですか?」とかも困っ
た質問だった。全く抵抗が無いと言えばウソになるものの、自分の立場
を振り返ってみればそれは断れない要請だろうし、けれどその理由など
を周囲の学生に吹き込める筈も無かった。
 そんなやり取りを宿舎に持ち帰って、レイナと話し合ったりもした。
そして時々は激しいやり取りになったりもした。これはそんな一例。で
終わる筈だったが終わらなかった一件。

「卵子の提供なんて、私はずっとしてた。でも、同じ事をタカシ君にさ
せるつもりは無いよ」
「何でだ?お前との間に出来る子供が完全な耐性を持つとしたら、他の
耐性が高い人達との間に出来る子供だって、有望な存在になるんだろ?」
「そうかもね。でも、あたしは、試験管の中で当人達の預かり知らぬ所
で受精させられて生まれてくる子供がかわいそう。だってそれって、両
親に望まれて生まれてきた子供じゃないってことになるんだよ?それが
どれだけ辛いことか分かる?」
「おれ自身違うだろうから、分からないよ。想像もできん」
「あたしは想像できる。それは、とてもとても辛いことなんだよ?自分
のお母さんを見つけても、自分がその子供だと言いだせないなんて、胸
が張り裂けそうになるんだよ?」
「そう言えば、みゆきと話した時、お前に聞いたって言ってたよ。母親
は知ってるんだけど、自分からは言い出せないでいるって。どうしてな
んだ?」
「複雑な家庭の事情ってやつ?その母親と、彼女が憧れてた人と、その
人が憧れてた女性との関係が絡み合っててね。自分からは言い出せない
の」
「ふぅん。難しそうだな。で、その、なんだ。言いたくなきゃ言わない
でいいんだが、これもみゆき伝手で聞いた話なんだが、自分ほど母親に
望まれないで産まれてきたってのは・・・?」
「例えばね。何十年も前から、精子バンクや卵子バンクで、適当にかけ
合された子供達が生まれてくることはあった。でもね、それは当人達は
望んで供出していたものでしょ。望んでいなかった供出から生まれてき
た子供達はどうなるの?」
「まさか、それがお前だってのか?」
「少なくとも、母親側にその意思は無かったのは確かだよ」
「じゃあ、どうやってお前が生まれてきたんだ?」
「父親側の勝手な意思かな。とても一途で、とても身勝手な欲望とも言
える。遺伝子のレイプとでも言うのかな」
「卵子を盗み出したっていうのか?そんなの可能なのか?」
「詳しいことは言えない。その人を特定しちゃうと、タカシ君から母親
に伝わっちゃうかも知れないから」
「てことは、おれの身近にいる人なのか?」
「それも言えないよ」
「二緒さんなのか?根拠は無いけどよ」
「当たり。って言ったら信じる?」
「あの二度目の誘拐事件の時か?」
「ううん。計算が合わないでしょ?だから一度目の事件の後だよ」
「でも、あの時の二緒さんて7歳だっけ?初潮なんてさすがにまだだっ
たんじゃないのか?」
「一つだけ方法があるよ」
「本人の身体の準備が出来てないのに、卵子を創り出す?そんなのいく
ら何でも・・・」
「創り出した当人は、それでもやったの。当時の二緒さんの遺伝子サン
プルから、卵子を創り出して、自分の精子とかけ合わせた。ね、怖気が
するでしょ?」
「まともな神経じゃねぇよな。でも、二緒さんの傍にいた人じゃないと
遺伝子サンプルなんて手に入らないんじゃないのか?」
「そうだね。だから、この話はここまで。でも、私が何で自然受精に拘
るのか、わかってくれたでしょ?」
「じゃあ、お前は人口維持法の精子や卵子の供出には反対なのか?」
「そう単純に割り切れないんだけどね。LV3が来るのは私自身のせいでも
あるんだから、人口を急速に回復させるのに必要な措置だとは思うし。
だから、まだ自分の中で決まってないよ。最終的な投票でも白票にする
かも知れないし」
「棄権する理由も明らかに出来ず、か。でもさ、母親に対して名乗りを
上げたいんじゃないのか、ホントは?」
「言うまでもないでしょ、そんなの?」
 レイナはおれの頬を思いきりつねってきた。涙が出るかと思った瞬間
手を離されたが、泣き顔になってたのはレイナの方だった。
「自分が自分じゃないと偽るのは辛いの。だけど、自分がその人にとっ
て一番辛い思い出を喚起させちゃう存在だとしたら?悪夢にしかならな
いよ、そんなの。私は、そんな嫌な存在になんてなりたくない」
「俺に何かできることはないのか?」
「今話してた事を黙っててくれるだけでいい。約束してくれる?」
「お前がそう願うなら、な」
「あたしのこと、嫌いになった?」
「なんでだよ?誰かの受精の経緯が誰かを嫌いになる理由になんてなる
もんかよ。そんなの間違ってるしさ。当たり前のことじゃん?」
「ありがと、タカシ君!」

 この時の話は当然、おれの胸の内に仕舞い込まれたが、人口維持法に
対するおれの態度に微妙な影響を与え続けることになった。

 そしてもう一つの事件。いや誰かが死んだわけじゃないのだが、意外
な人の接触を受けた。
その日も大学へ聴講へ行き、授業が終わって帰ろうとしていた時のこと
だった。
 授業の後に取り囲まれる人の輪が途切れた頃、帽子を目深に被った男
性が近付いて来て言った。
「ちょっとお時間を頂けませんか、白木議員?」
「えぇと、どなたですか?すみませんが、サークル活動とかの類はお断
りしてるんですけど」
 野球や政治その他を含め興味が無いわけじゃなかったが、議員として
の活動に支障を来さないようにしたかったし、セキュリティーの人から
授業後は速やかに宿舎に戻るよう要請されていたのだ。
「私です。覚えていらっしゃいませんか?」
 その男性は帽子のひさしを上げ、眼鏡を外した。
「ま、まさか、へ・・陛・!?」
「おっと。せっかく一学生として紛れ込めたんですから、台無しにはし
ないで下さいよ」
 和久陛下は、眼鏡と帽子を元通りに戻して言った。
「学食はどこですか?一度行ってみたかったんです」
「ご案内しますけど、わざわざその為に?」
「まさか。学食はついでで、大切なお話があるからです」
 おれはバッグを肩に担ぎ、陛下を案内すべく立ち上がったが、周囲に
大掛かりな警備が敷かれてるような気配は無かった。おれのAIはいつも
通り傍にいるのは変わりなかったが。
「あの、護衛の方とかは?」
「ちゃんと監視がついてますし、あなたの警護役の方々もいらっしゃい
ます。ご心配無き様。それより、仰々しい呼び方は止めて下さいね」
「なんてお呼びすればいいんですか?」
「そうですね。一応私の方が年上ですから、先輩、というのでどうです?
名前の一部でも出ない方がいいでしょうし、大学らしいですよね」
「わかりました」
 おれと陛下は、学食というかカフェテリアに行き、ひと気の無い片隅
に席を占めた。陛下はカレーとラーメンを注文し、おれはその片方をト
レイに乗せて運んだ。
「ひどいですよね。今までの天皇だって、学校くらいには通えて留学だっ
てしてた人はいたのに、私だけ全部宮内で済まされてしまったんですから」
「はは。じゃあ遠足とか修学旅行とか学芸祭とか運動会とかも無しですか」
「そうです。そういった話題では、時折レイナと盛り上がったものです」
 喜々として学食カレーやラーメンに舌鼓を打つ陛下を前に、おれは返す
言葉に詰まった。
「これが庶民の味、いや外の世界の味というのですか。マクダナルドと
かをレイナに買ってきてもらったことはありますが、やはりその場所に
身を置いて食べないと雰囲気が出ないものですね。今日は来て良かった」
「あいつと一緒ならどこにでも連れていってもらえたんじゃないんですか?
その・・・」
「いいえ。あの当時の彼女は、いえレイナは、ELの完全な制御下にあり
ましたから。私を勝手に外に連れ出すのは、犯罪になってしまうと」
「じゃ、今は違うのですか?」
「アイスベルト、ご覧になりましたか?」
「はい」
「あの一件からです。中目さんが表に出て、政府の意向をも無視し始め
たのは」
「中目にELはかかっていないということですか?」
「そうなりますね。レイナは今でもELの制御下に無い訳じゃ無いけれど、
スイッチの切り替えですり抜けられるようになったようなものです」
「なるほど・・・」
 陛下はカレーを平らげ、ラーメンのスープまで飲み干すと満足げに溜
息をついた。
「もうこんな風に外出できることなど何度も無いだろうな」
「どうしてです?どうせなら、同じ年代の連中とばか騒ぎもしてみたく
はありませんか?」
「それは・・・とても楽しそうですね。居酒屋というところにもぜひ行っ
てみたかったのですが、警護の人達にもお店に人にもあまり無理を言え
ませんし。
 さて、そろそろ本題に入りましょうか。今日来たのは他でもありませ
ん。次に抽選議員の皆さんが審議する法案についてお願いがあって参り
ました」
「国体維持関連3法案ですか?」
「はい。その中の一つ、皇室維持法についてですが、これを廃案に追い
込んで頂きたいのです」
「は、廃案ですか・・・」
「そうです。そのハードルが高い事も存じ上げてはいますが、私として
はこの法案を容認できない。少なくとも私自身に対して、この法案が適
用されるのは許せないのです」
「どうしてですか?」
「皇室維持法の要点は、天皇家の遺伝子サンプルを保存し、絶えてしまっ
た時はクローン再生して、その地位に就けるというものです。つまり私
でない誰かが、私の紛い物として天皇の地位に就く。もしかしたらそれ
が相子やその相手との子孫になるかも知れませんが、彼らも絶えてしま
えば同じ事が起きる。私はそれが許せないのです」
「けど、国民感情を考えたら、そういった要求は出てきてしまうのでは
ないでしょうか?」
「私は、何でしょうか?白木さん」
「え、天皇陛下であらせ・・・」
「生物学的には、紛れも無く、人間です。神話の起源など確かめようが
無いし、そもそもこの時代において各神話や宗教を一字一句そのまま信
じるなど狂信です。正気じゃない。ましてや我々はあの中目さんのよう
な地球外知的生命体と接触まで始めてるのですから。
 私は数年前、ある宣言を行いました。ご存じですか、白木さん?」
「確か、お后様を娶られないとか、自分の細胞からクローン再生された
存在を天皇とは認めないとか・・・」
「そうです。今回の法案は、その私の意思表示を真っ向から否定するも
のに他なりません。しかし私は、天皇ですから法案に反対することもで
きない。玉璽を押さないと表明することもできない。だから、あなたに
お願いしに来たんです」
「そう仰られても・・・。そうだ、相子様や奈良橋さんはどうなんです
か?お二人が同じ意見なら世論も・・・」
「残念な事に、相子姉さんも奈良橋さんも、皇室維持法を容認するらし
いです」
「そう、なんですか・・・。でも廃案に追い込めって言われても、今回
のは3つをまとめて審議するから1つだけ廃案ていうのはむずかしいかも
知れません」
「そうなのであれば、3つとも差し戻して、せめて皇室維持法だけでも
修正なり廃案にしていただきたいのです」
「越智首相には御相談されたんですか?」
「してみましたが、彼個人の思惑や信条からは手を離れてしまったと。
日本国の政治を預かる身としては、今回の法案に賛成せざるを得なかっ
たと聞きました」
「じゃあ、レイナは・・・?」
「レイナは、私の願望を知ってはいますが、今の彼女にはどうすること
もできません。彼女は私ではなく、あなたをパートナーに選んだのです
から」
「ぼく個人の信条として、今回の法案に賛成したい場合はどうなるんで
す?」
「その場合は仕方ありませんね。私のお願いはもともと身勝手なもので
す。諦めるしかありません」
「陛下・・・」
「これは、私の妄想として聞き流して下さい。例えば私の遺伝子サンプ
ルからクローン再生して、その個体の精子を、人口維持法でかき集めた
卵子と片っ端からかけ合わせていく。そうすれば中には“当たり”も出
てくるでしょう。
 そこには人の尊厳も私の意思も有りません。ただ皇室という存在を維
持したいという勝手な願いだけです。ブランド信仰と似ていませんか?
そのタグがついていれさえいればいいというのですから。
 そうやって生まれてきた数十人なり数百人は、確かに天皇家の遺伝子
を継ぐ者かも知れません。ただ私から言えるのは、それは私の子供では
無いし、私の祖先の子孫では無いし、私は彼らを天皇家の末裔として認
めるつもりも無いということです」
「そういった談話を発表すればいいんじゃないんですか?おれ一人が反
対してもどうにもなりません」
「談話は既に発表して世間に認知されています。それでも今回の法案は
出てきました。LV3が間近に迫っていて、もう待っていられなくなった
んでしょうね」
「お約束はできません。おれ一人で何が出来るかも考えてみたいし、考
えた後でやっぱり法案に賛成したくなるかも知れないので」
「・・・あなたにお話しできて良かった。それだけでも、今日ここに来
た甲斐はありました」
「法案が通ってもですか?」
「はい。誰かに愚痴を言いたかっただけかも知れませんね。お時間取ら
せてしまいすみませんでした」
「そ、そんな畏れ多い」
「それじゃあ、私はこれで。警護役もしびれを切らしてるみたいですし、
周囲に人も増えて来ましたしね」
「は、はい。それではまた・・・」
「またどこかで。お会いできるといいんですが」
「え・・・?」
 そう何度も会える筈が無い存在だとは後から思い起こしてみれば当然
だったものの、おれは額面通りにしかその場では受け取れなかった。
 和久陛下が席から立ち上がって誰もいない何も無い筈の空間を叩くと、
そこからは確かにぱんぱんと音がした。
 陛下が学食から去られてから、おれはAIに聞いた。
「まさか、見えなくなる光学迷彩ってやつ?」
「国家機密です。それでは、こちらも宿舎に戻りましょう」
「・・・やれやれだよ」

 天皇は国民の象徴であって、一切の政治的判断を禁じられている。そ
れが例え当人の身に関わりのあることだったとしても。
 その不自由さを訴えられた若干18歳の国会議員は、学食の片隅で途方
に暮れた。

「まずは作戦を練らないといけないか」
帰りのセレスティスの車内で考えてみた。差し戻すには、少なくとも自
分以外の6人の協力が必要だった。
「やっぱ年の近い人からかなぁ。レイナと二緒さん、奈良橋さん、牧谷
さんと内海さん。合わせても5人か。赫さんとかにも相談してみるかな。
逆効果かなぁ・・・」
 何にしろ、まずはレイナに相談するしかなかった。レイナに断られれ
ばその先の協力者探しは一段と難航する筈だった。
 宿舎に着き、夕食の準備をし終わった頃、いつの間にかレイナが食卓
に突っ伏していた。
「お帰り。その様子だとだいぶ疲れてるんじゃないのか?大丈夫なのか?」
「ただいま。車とか飛行機乗って移動するよりは疲れてない筈なんだけ
どね。直接出向いて話したり見たりしないといけないことも多くて」
「TV会議みたいので済ませられないのかよ?」
「もちろん、そういうので済ませられるのは、なるべくそうするように
はしてるけど」
「お腹の子供への影響だって、わからないんだろ?」
「大丈夫、だとは思うんだけどね。タカシ君が言うなら、もうちょっと
別の方法も考えるよ」
「例えばどんな?」
「自分が移動するんじゃなくて、会う人達を一か所に移動させちゃうと
かね。でも、そういうのを嫌がる人もいたりするから、自分で出向いて
たりしたんだけど、交渉してみるよ」
「そうしてくれ。で、今日はおれからも話があるんだけどさ。食いなが
らにしよう」
「うん、わかった」
 今夜の献立は、サバの味噌煮、豆腐、酢の物、味噌汁にご飯といった
感じだ。
 おれは食事の合間に、大学であった来客とその会話の内容をレイナに
伝えた。
「そっか。カズ君、私じゃなくて、タカシ君にお願いに来たんだ」
「カズ君て・・・」
「お付きの女官だった時ね、陛下は堅苦しいから、別の呼び方にしてく
れって。それでカズ君。それで、タカシ君としてはどうするつもりなの?」
「正直、ここでおれがどうにかして差し戻ししたとしても、来年とかそ
の次とか、どこかのタイミングでこの法案は再提出されてきて成立しち
まうと思うんだ」
「だから抗うだけ無駄?」
「自分自身、必要な法律なんじゃないかって思えるし」
「例えばなんだけどさ、いずれ再提出されて成立してしまうかも知れな
い法律でも、誰かが自分の為にそこまでしてくれたって思えるのは、頼
んだ当人にとっても幸せなことなんじゃないかな?」
「そうかも知れないけどさ」
「それにね、もし妥協案を見つけるとしたら、当人が供出を拒絶してい
る場合、その遺伝子サンプルは破棄してクローン再生には利用しない、
っていう線だって有るんだよ?」
「ううん・・・。今じゃ二人しか残ってないから、和久陛下が拒絶され
るなら、相子殿下しかいなくなるわけだろ。相子様が供出を受け入れた
としても、それはまた男系と女系の天皇の議論に立ち入ることにならな
いか?」
「新憲法が成立した時、女系でも女性でも天皇として即位することは認
められた。男系の男子が存在する時は、そちらの皇位継承権が優先され
ることにはなっているけどね」
「でもLV3が来たら、そんな悠長な議論はしてられないってことか。でも
男系に拘る人達はいそうだけどなぁ」
「相子様と奈良橋さんは、国体維持関連3法案を容認する意向って聞い
てる。でも、カズ君の信条を受け入れてくれる余地は有るかも知れない
よ」
「お前はどうなんだ?和久陛下のお側にいたこともあるお前の意見は?」
「言えない。ていうかわからないよ。いろいろ、あったから、ね。カズ
君とは・・・」
 黙ってしまったレイナを前に、おれは昔の噂を思い出した。抽選議員
の初顔合わせで牧谷さんと内海さんが言ってた、陛下の閨のお相手をし
ていたのがレイナじゃないかというやつだ。
「遺伝子を保存するなら、まず国家と国民の象徴から、か。LV3後でも天
皇家を奉れるなんて考えてるのかな、政府は」
「そうする必要があると感じてるから、今回の法案が提出されてきたん
じゃないの?」
「天皇の御旗の下に国民を再結集させるってか?天皇親政なんて無理だ
ろ」
「天皇が直接国家指導者になるかどうかは別にしても、現体制が崩壊し
た後に、わかりやすい目印にはなると思うよ。抽選議院副議長とか首相
代行って存在よりはね」
「崩壊の度合いにもよるだろうけどな。AI達が行政基盤は支えててくれ
るんだろうし」
「あたし達二人で決められる問題でも、決めるべき問題でも無いと思う
よ。一応、事前に頼れそうな人達に相談してから感触を掴んだり協力を
得られるようなら、抽選議院の審議で修正案を持ち出してみてもいいん
じゃないかな、かな?」
「頼れそうな人、ねぇ。二緒さんとか、牧谷さんとか、奈良橋さん、内
海さんくらいまで?根拠は無いけど、七波さんとかもどうかな?」
「思い当たる人に全部当たってみればいいよ。ダメで元々なんだから」
「ん、そうしてみるか」

 と軽く言ったものの、誰からどう手を着けるかで更に迷った。レイナ
は意見を保留したまま、会合が開かれるなら参加するからと言って、深
く触れようとはしなかった。
 おれは藁にもすがる思いで、結局は、相子様の親友でもある二緒さん
にまず連絡してみた。事情を聴き終わると、二緒さんは言った。
「なるほど、あの子が直接会いに来たの・・・。法案の賛否はひとまず
置いておいて、事前の話し合いは無駄じゃ無いと思うわ。そうね、私か
ら相子とかには話を通しておくから、他の人達に声をかけてご覧なさい。
もしパートナーがいる人は、その人も一緒にどうぞって」
「どうしてパートナーも?」
「自分の遺伝子を残す相手でもあるわけでしょ?十分に関わりがあるわ
よ。人工子宮利用法だって審議に含まれるんだしね」
「わかりました」

 会合場所は二緒さんがセッティングしてくれることになり、おれは日
時を参加予定者に伝えれば良いだけになった。


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