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ある日ぼくがいた場所

2-5 二人の過去


二人の過去


 審議予定の無い日の昼間、料亭の一室で会うことになり、当日を迎えた。

 桶口良子という名刺を渡してきた相手は、雰囲気のあるお嬢様で、カ
メラを携えていなければジャーナリストにはとても見えなかった。
「お写真、撮ってもよろしいです?」
 そう問いかけられて思わずうなずいていた。
「良かった。時々いやがる方もいらっしゃるので」
 相子様や二緒さんとも違った上品な微笑みだった。
 何枚か立ち姿と座っている姿の写真を撮られた後、その出来映えも見
せられておれは使用許可を出していた。
「思ったより気むずかしい方でなくてホッとしてますわ。うふふ」
「はは、どうしてそう思われたんですか?」
 桶口さんは何かを祓うように、ぱんっ、と手を叩いた。その途端きー
んと耳鳴りがし始めた。
「厄除けです。私達二人とも、用心し過ぎるに越したことは無い立場に
いますから。そしてこれからお話しすることも、ね」
 桶口さんは立ち上がり、気休めですから気になさらないで下さいと断っ
てから、部屋の四隅にお札の様なものを貼り付け、おれと自分とを中心
にしてバッグから取り出した塩か何かで円を描いてぐるっと囲った。
「さてさて、相子から頼まれた実験ですが、果たしてそううまくいきま
すことやら・・・」
「あの、いったい、何をなさっているんで?」
「あなたも、できるだけ、内緒にしておきたいでしょう?私もです。そ
してきっと彼女も。だから試してみるんです」
「あの、だから何を?」
「律子に遠慮しないといけませんから全部は出来ませんが、手をつなぐ
ぐらいだとあのお方も普通に見逃してくれるでしょう。加減が難しいで
すね」
「あの~?」
 桶口さんはぶつぶつとつぶやきながら、テーブルの反対側のおれの側
にやってきたかと思うと、おれの膝の上に腰掛け、両手をおれの首の後
ろに回してしまった。
 心拍数が急激に跳ね上がった。彼女がいつアイスベルトに飛ばされる
か気が気で無かったというのは言い訳に過ぎまい。
「あのぉ~、それ以上はきっと、やばいと思うんですけど・・・?」
「存知上げてますわ。でもこれからしようというお話は、もっと危ない
内容ですもの。最初にかけられるだけの保険はかけておくべきですわ」
「今、こうしているのが、保険・・・?」
「はい。やはりこれくらいでは反応されないのかどうか確信が持てませ
ん。口づけ程度で試せれば私も楽なのですが律子を後で怒らせたくもあ
りませんし。
 致し方ありませんが、ご協力下さいね」
「あの、だから、説明を先にぃぃぃって!?」
 桶口さんはおれに上半身を密着させて、おれの耳元にふうっと息を吹
きかけ、耳たぶを甘噛みしてきた。
 かぐわしい年上の女性の色香に包まれて意識が遠のいた。
「あら、まだ大丈夫なのね。じゃあ、あと一つだけ。ご容赦下さいね。
私にそのつもりはありませんので」
「じゃあどんなつもりでぇぇぇっ、ってどこをさわっ・・・!!!???」
 体を密着させたまま桶口さんが触ってきたのは、おれの一番敏感な部
分というかモノというか・・・。こんな状態ではきっちりかっちりそう
いうモードに移行してしまっているわけで・・・。
「あら、大丈夫みたいですね。安心しました」
「なななななにがですかぁぁ?」
「私達3人の間で話題になっている方の大きさまで確かめられた事ですし。
ふふふ、はしたないですわね。これは、お詫びです」
 桶口さんはおれのほっぺたにちゅっと唇を押しつけると、あっさりと
身を引いて元居たテーブルの反対側へと戻ってしまった。
「では、本題に入らせて頂きます。よろしいですか?」
「さっきまでのが何だったのか、先に説明して欲しいんですけど!」
 股間にその手の温もりが残っている相手が正面にいて平静でいろとい
うのが無理な相談だった。
「言った筈です。あの方がどこまでお見逃しになられるのか、もしくは
ここを見れていないのか、予め確かめておく必要がありましたので。ご
無礼とは思いましたが、お許し下さいませ」
「あの方って、中目の事か?」
「はい。そして私がお話ししようとしているのは、彼女が表に隠し通し
た事、隠し通している事の一部に触れる内容でしたから」
「和久陛下とは、やっぱり・・・」
「はい、そういう関係、でしたわ」
 言ってしまってから、いつ飛ばされるのかびくびくしていたが、何事
も起こらないと見ると、桶口さんは深い安堵の息をついた。
「あはは、やっぱり、怖かったですわ。親友達の為とはいえ、あまり慣
れないことをするものじゃありませんね。今だって心臓の音がすごくて。
聞こえませんか?うふふ」
「聞こえませんね。それで、二人はどういういきさつで?」
「ご想像はついているし、聞いてもいらっしゃったんでしょう?LV3で
人類が滅びるとしても、中目零那を利用して皇室の血だけは永らえさせ
ようとした人々がいた事は」
「ええ。だけど二人が気持ちの上でも結びついていたのかどうかは・・・」
 無理に当人に問い質したくは無かったし、感情的にも何も無いでは済
まされなかったのも想像はついていた。だが、第三者からの正確な情報
が入手できるのなら、それは喉から手が出るほど欲しかった。
「ご存じでしょうけど、私は相子殿下の友人として、私的な専属報道官
として、時折皇居を訪ねます。その時に見聞きしたのですけどね、和久
陛下は、ずっと、相子殿下の親友でもある律子に憧れていました。
 律子が相子に初めて皇居に招かれて以来ですので、一目惚れだったの
でしょう。初恋でもおそらくあったのでしょう。あの一途な視線は、見
ていれば誰にでも分かってしまうものでもありました」
「じゃあ、陛下も二緒さんに求婚してたんですか?」
「律子が日本に帰化して、あの忌まわしい事件があって、その余波が落
ち着くまでにしばらくかかりました。NBR社長に就任して社員のAIへの
置換という荒行も待っていましたし。
 それから2年が経ったおよそ10年前。相子や私や律子が15歳。当時の
陛下が10歳の時、初めて顔を合わされたと記憶しております。
 年頃の若い娘3人の輪に、どうにかして混ざろうと懸命になっていた
幼い陛下の姿が思い起こされます。姉として慕われていた相子は、さす
がに陛下を退けられていましたけどね。
 その後も、何かと理由をつけて催し事を企画されて、何とか相子つな
がりで律子を参内させようと躍起になられていて。それはそれは愛らし
いお姿でしたわ」
「そこら辺は、一般には何も伝わってきてませんでしたね。もしあった
ら、相当な騒ぎになってたでしょうし」
「そうでしょうね。さて、私達が20歳になる頃には、陛下もお年頃の15
歳になられていました。それまでもお手紙などを通じてお気持ちを伝え
られていたそうですが、ある日相子を訪ねられた律子を捕まえて、面と
向かって告白されたそうです。
 私の妃になってくれと」
「ずいぶん一途で、積極的だったんですね」
「律子は、断りましたし、この一件が表沙汰になることもありませんで
した。律子が拐かされた時にされた事や、父親が外国人である事などを
元に、彼女が陛下にふさわしくないと感じていた勢力がいることも律子
は知っていましたし」
「相子様や、あなたはどうだったんですか?その、二緒さんと陛下との
間に望みがあったのかどうか・・・」
「相子は、はっきりと、あなたは律子にふさわしくないと陛下に伝えら
れていました。私は、そうですね、うまくいかなかったと思いますよ。
もしお二人がそう望まれていたとしても」
「二緒さん自身に、少しでも気はあったんですか?」
「全く無かったですね。それはもう陛下がおいたわしくなるくらいに」
「それで二緒さんにフラレた陛下はどうなったんですか?」
「それからしばらくはかなり落ち込まれて、そういった勢力がお近づき
にならせた将来のお后様候補達に手当たり次第に手を付けられていたそ
うです。当たりが出れば、そのままご成約に持っていこうとしていたみ
たいですが」
「そうはいかなかった。そしてそれからなんですね。レイナが陛下に付
けられたのは?」
「はい。ご心痛によって荒れられた時期にめぼしいお后様候補は皆当た
りが出ず、ならばと付けられたのがあの中目零那だったのです。陛下が
16、7の頃だったでしょうか」
「じゃあ、あいつがまだ13、4の頃か。ひでぇことしやがる」
「それでも、普通の庶民よりはずっと陛下の事を間近で見ていた私など
からすれば、心を閉ざされていた筈の陛下が、あんなにも急に心を開か
れたのに驚きました。まるで、律子を初めて見て恋に落ちた時の様子に
そっくりでしたもの」
「実は惚れっぽいだけじゃ?」
「そうかも知れませんけれど、相子も不思議がっていましたよ。律子に
一生操を立てたような陛下が、いきなり付けられた、言っては悪いです
がパブリック・チルドレンという要は捨て子にあそこまで急に心を開く
とはって。あの子の器量も悪いとは言いませんが、律子とは較べようも
ありませんし、荒れていた時期につけられた少女たちの方がよほど魅力
的であったのではと私ですら思いましたもの」
「それでも陛下はレイナに惹かれ、レイナも陛下を、そのお気持ちを受
け入れた・・・。そうなんですか?」
「そう聞いてますわ。あの子が付けられていたのは6ヶ月と短い間に過ぎ
なかったけど、陛下はご婚約まで望まれていたって聞きましたもの」
「相子様から?」
「ええ。あの子は望み得る理想の相手と和久様が仰られていたと。
 でも、あの子を陛下に付けた勢力は一つの条件を出しました。二人の
間に世継ぎが出来ることを証明すること。それが出来なければ、やはり
彼らは別の候補を探さざるを得ないし、陛下もそれを受け入れなくては
ならないと」
「それであいつは、追いつめられていったんですか・・・」
「アイスベルトの話は、私もしばらくしてから聞きました。だから私は
一般人としては、かなり事情を知ってる方の一人ですね」
「桶口さんは、二人がつきあってる時の姿は見たことあるんですか?」
「直接この目で見たことは無いですけれど、写真は見せてもらったこと
があります。とても仲の良い恋人同士に見えましたけれど、あの子は今
にも泣き出しそうな顔をしていました。きっと結ばれはしないと分かっ
ていたのでしょうね・・・」
「耐性の話もありますしね」
「いずれ殺してしまう相手ですものね。私としては、そんなあの子が陛
下のお側から離れてくれてせいせいしてますけれど」
「あなたは、陛下のことを・・・?」
「どうかしら?相子を訪ねて行くふりをして、陛下の寝込みを襲うくら
いはしてみたいですけど、あの子のせいで、陛下はもう誰も娶らないし、
誰も抱かないと宣言されてしまいましたからね。今から子種を搾り取っ
て宿らせても、陛下との間に出来たと言えないのはとても悔しいのです
わ。女として」
「ひょっとして、あなたは、そんな陛下を無碍にふった二緒さんの事も
嫌いなんじゃないですか?」
「いいえ。そんな単純ではありませんよ。ただ、悔しくはありますけれ
ども」
「それで、どうされたいんですか?」
「その悔しさを、あなたではらすというのはどうでしょうか?律子に対
しても、あの子に対しても」
「さ、さっきと同じ、悪ふざけですよね?そうですよね?」
「あら、先ほども私は微塵もふざけたつもりはありません。元より私は
相子の親友ではあったつもりが、一番の親友の座は律子に取られてしま
いましたし、律子は私の親友というよりは、相子の友達という位置づけ
ですもの。だいじょうぶ、まだあの方とも正式に婚約されたわけではな
いのでしょう?ならこれは浮気の内に入りませんわ」
「な、中目の奴にどこに飛ばされるかわかりませんよ?」
「あら、私は格別に耐性保持者というわけではありませんもの。LV3が来
れば真っ先に死んでしまう類の一人でしかありません。そうであれば、
あの方に一泡吹かせられれば本望という気持ちはありましてよ?」
「ぼぼぼくは、古風でして、いいいきなりってのは・・・」
「あら、初対面でも、体はきちんと反応してましたよね?大丈夫、私も
経験がある方ではありませんが、ヤリ方は見聞しておりますので支障は
無いかと」
「ももももしかして、初めてって言ってます?」
「あら、何か不都合が?殿方には初物の方が喜ばれると聞いていますが」
 云いながら桶口さんは立ち上がると、すとんという感じで着衣を床に
落としてしまった。下着姿になってテーブルの下に潜り込み、まさかと
思っている内に、足の間に現れた。
「だいぶ時間が経っているから、また最初から・・・。あら、今も元気
でいらっしゃるのね。たくましいこと」
「こ、これはついさっき勃ち直したんです。いきなり脱がれるし!って
いうかぼくが今予想してることをしようとしてるなら、今度こそどこに
飛ばされても知りませんよ!警告しましたからね!」
 言う間にもチャックは下ろされてしまい、不誠実な息子は外気にさら
されてしまった。
「まぁ、思ってたよりもずっと・・・。こんなのがちゃんと入るのかしら」
「む、無理して入れてくれなくていいですから!さ、さすらないでぇぇぇ」
「ま、まだ大きくなるんですの?ええいっ!」
 ぱくり、と口に含まれた。それはもうえも言われぬ感覚なわけで、息
子はびくんと跳ねた。
 桶口さんにしても驚いたみたいでいったん吐き出してけほけほしてい
たが、意を決したようにあちこちにキスしたり舌を這わせてきた。
「さっきからびくびく脈打ってますわ。それに、邪魔も入らないみたい
ですし、このまま最後まで押し切らせて頂こうかしら」
 レイナと中目のどちらの邪魔も入らないのが解せなかった。これはも
しかして自力で何とかしないといけないのかと思い始めたところで、下
着を外した桶口さんが跨ってきた。
「ちょ、ちょちょちょちょっと待って下さいよ!何するつもりなんです
か?」
「あら、もちろん、入れるべきものを入れるべきところに入れようとし
ているだけですわ」
 彼女はおれの息子の先端を自分の入り口にあてがうと、腰を落とし始
めた。
「うわ、取り返しつかないことになりますって。やややめて~!」
「あなたのここはいやと言ってませんわ。それに力ずくでも私を押し退
けないのはどうして?うふふ」
 桶口さんは片手を俺の頭に回して唇を重ねてきた。舌まで入れられて
きて、頭の中がとろんとしてきたところに、息子の先っちょはもう彼女
の中にこんにちはしているみたいだった。そこから先は幸いにも彼女の
初めての壁に当たって苦戦しているようだったが、彼女の体重のかけ方
とか腰の動かし方からすると、それも時間の問題でしか無かった。
 はっ、はっ、という彼女の息遣いが部屋こだまし、おれの手はいつし
か彼女の腰に添えられて共同作業に参加していた。
 その突貫作業が徐々に進展を感じさせ始めた時、おれはぼんやりと考
えていた。どうしてみゆきはダメで、この初対面の人はイイんだろう?
そんな自分のあいまいな線引きにも戸惑っていた。
 そして遂にその瞬間が訪れようとした時、部屋の入り口が唐突に開い
た。
 そこに立っていたのはレイナでも中目でもAIでもなく、二緒さんだっ
た。
 二緒さんは顔を真っ赤にしながらつかつかと入ってくると、おれと桶
口さんの頬を容赦の無い強さで打った。
「何やってるのよ、あなた達!?」
 桶口さんは一瞬だけ放心していたが、すぐに言い返した。
「何かソレ以外のことをしてるように見えるかしら。邪魔だから出てっ
て!」
「な、何言ってるのよ、あなた!白木君にはレイナさんという人がいるっ
て知ってて!」
「あなたがいずれしようとしてたとを私が先にしようとしてるから怒っ
ているの?だったら私はここから降りて、あなたがそうするのを見届け
てあげる」
「なななんで、こんなとこで、あなたに見られながらしなきゃいけない
のよ?!」
「だって律子。あなたいっつも言い訳ばかりなんだもの。陛下のお気持
ちを受け入れなかったのは、この男の子が気にかかっていたからでしょ
う?だったら素直になりなさいよ。そう、このまま上に乗っかれば済む
話よ」
「ああああなた何言って・・・」
「いい?もう一度だけ言うわ。出てって。あなたがすぐ私の位置を奪っ
て思いを遂げると言うので無い限り。私も好きで見られたいわけじゃな
いもの」
「そんなの、すぐに決められるわけないでしょ?!」
「私は、もう覚悟を決めて来たの。アイスベルトに飛ばされることも覚
悟しながら、あの子と陛下の間の話もしたし、この男の子のを咥えもし
た。初めても捧げようとしてる。どうしてかわかる?私も、陛下も、ど
うせ死んじゃうからよ!だったら私は精一杯の抵抗をする。あの方に対
しても、運命に対しても!」
 二緒さんは、そしておれも呆然としていた。二緒さんは一歩下がり、
でも部屋からは出ていけないでいた。
 そんなわき目をふっていたおれの顔を自分に向き直させた桶口さんは
言った。
「今だけは、私に集中して。お願い・・・」
 そして若干萎えかけていたソレを手でしごいて元通りにすると、彼女
は再び作業に集中し始めた。
「タカシ君!あなたは、あなたはそれでいいの?」
 何か答えようとしていたおれの唇は塞がれ頭ごと抱え込まれてしまっ
た。そして彼女の腰はついに行き着くとこまでいって落ち着いてしまっ
ていた。
 音で、二緒さんが走り去ってしまったのがわかった。
 唇がようやっと離れて言った。
「あの子ったら、ドアも閉めないで・・・」
 その声を聞いていたかのように、たぶん外に控えていたAIの手がドア
を閉めた。
「バカなんだから。あの子は。そして私も・・・」
 頬が濡れたのがわかった。彼女の体全体がふるえていた。今更ながら、
実感がわいてしまったのだろう。
「どうします?やめておきますか、もう?」
 おれは彼女の両肩に手をかけながら言った。
「こ、ここまで来て中途半端に止められるもんですか。私の為にも、陛
下の為にも、そして傷つけちゃった律子の為にも、ちゃんと最後までシ
て。中で、出して」
「でも、たぶん痛いですよ。そこまでの課程が」
「だいじょうぶ、それくらい、耐えてみせるから」
 無理に笑ったその顔が、まるで天使みたいに見えた。
 だからおれはちゃんと彼女の体を愛撫し直して、テーブルに彼女の体
を寝かせて、最後までした。
 その後、ぎゅっと抱きしめてあげたりもした。桶口さんも抱きしめ返
してきてくれた。
 それから彼女は衣服を身につけ、去り際に言った。
「ちゃんと中で出してくれたけど、たぶん子供はできないと思う。耐性
の差があるから。でも、一つだけ、いえ出来れば二つお願いしてもいい?」
「人の貞操を奪っておいてお願いとは図々しいですね」
「どうせ殺されちゃうんだから、わがままのいくつかは聞いてくれてもい
いじゃない?」
 言い返せなかった。
「できたらでいいわ。中目零那を、殺して」
 どうしてとも言えなかった。
「私が生涯ただ一人好きになった人をふって、殺してしまう人を、私は
許せないの。それだけ」
「・・・それで、もう一つは?」
「できたら、律子も抱いてあげて。私のこと抱けたんだから、できる筈
でしょ?」
「たぶん・・・」
「君はイイ男よ。私にとって、陛下の次な位には」
「あなたもイイ女ですよ。一番目はふさがってるし、何番目とも言えな
いけれど」
「このっ!女泣かせめっ!」
 しばしじゃれあい、ふと見つめあって短いキスを交わした後、一つ丁
寧なお辞儀をして桶口さんは去った。
 おれも外に控え続けたAIを伴って宿舎へと戻った。その間AIは沈黙し
たままだった。


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