ある日ぼくがいた場所

2004/12/02(木)03:22

日記のようなもの(146) 『ウエハースの椅子』江國香織

日記のようなもの(782)

幸せという行き止まり。 これ以上何も望むものがないという絶望。 満たされているが故の閉塞感。 解き放たれたいという願望。 ただ失うにはあまりにも重すぎる幸せ。 そんな贅沢な矛盾した感情を 主人公がとつとつと語っていくエッセイのような小説。 過去と現在のエピソードを行き来しつつ 主人公は迷う。 堂堂巡りする。 自分を閉じ込めた幸せから抜け出す為に 恋人と別れるべきかどうか、 死を選ぶべきかどうか、 と。 『紅茶に添えられた角砂糖でいるのが、たぶん性に合っていたのだろう。  役に立たない、でもそこにあることを望まれている角砂糖でいるのが。』 子供の頃から人生をそう捉えてきた主人公が、 恋人に別れを告げて無理に自然死しようとして、 その恋人に死ぬことを中断させられ、 お互いに同じ絶望を共有していたのだと気が付いて、 物語は終わる。 私は先が全く見えなくなるほど 誰かと深い関係になったことはない。 それは体を重ね合わすことだけでも、 結婚の約束を取り交わすことだけでもない。 好きなように生きて、 その結果として幸せになっている筈なのに その幸せに生が逆に押し潰されそうになるような そんな体験はあまり羨ましいとは思わない。 ただ、そうなってしまったらなってしまったで、 やはりその絶望という名の幸せを お互いに抱えて生きていくしかないのだとは思う。 おまけ:故途乃葉(コトノハ)

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