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カテゴリ:書き物的なモノ
私は、はっきりと、夜型だ。
お勤めは平日の昼間なので 仕方なく朝起きるけれど 週末はそれが逆転する。 夕方くらいに出かけて 朝方くらいに帰ることも珍しくない。 太陽の明るさはありがたいけれど ずっと見つめ続けられない激しさがある。 月はこちらの視線をずっと受け止め続けてくれる 優しさがある。 ヒルは、全ての輪郭をはっきりさせる厳しさがあるけれど、 ヨルは、全ての輪郭をあいまいにしてくれる柔らかさがある。 昼と夜。 どちらもなくてはならないものだけど、 朝8時から翌朝8時まで、 1時間ごと10分の休憩と、 夕食の1時間休憩、 そして翌午前2時からの2時間の仮眠を挟むだけで、 80kmを踏破する そんな過酷な そんな高校生達の年間行事が物語の舞台。 主人公は、高校3年の貴子と融(トオル)。 同じ父と、異なる母親から産まれた二人。 二人は、偶然にも同じ進学校に進み、 3年次には同級生になってしまう。 それまでは、見て見ぬふりをしてれば良かった。 けれど、 同じクラスではどうしても近付き、 意識し合わなければならない機会が増える。 二人は、互いの持つ秘密を友人達に打ち明けないでいた。 そんな二人の間に流れる緊張を 彼らの周囲は他の何かと勘違いして 二人をくっつけようとする。 貴子は、いわゆる浮気相手から産まれた子供。 認知は受けたが、養育費を一切受け取らぬまま貴子を育てた母親の気質もあって、 貴子は何も気後れせずに育った。 トオルからすれば、そんな貴子とその母親の姿が憎らしかった。 せめて悪びれていたり、すれていたり、みじめそうなら、さげすみや憐憫の対象にできた。 しかし彼女らは違った。 むしろ父親と過ごし続けたトオルの家庭の方がどこか暗いものがあったので、 トオルの貴子達に対する感情は鬱屈した。 そんなの理不尽だろ! と叫びたくなるような感情。 貴子とトオルは、早くして亡くなった互いの父親の葬儀で初めて顔を合わせる。 貴子は、トオルの抱いていた憎しみの眼差しに面食らう。 私が何をしたの?、と。 その緊張は二人を隔て続けたが、 貴子は決心する。 コトは二人の間で起こったのでは無いのだ、と。 自分達の母親と父親の間で起こったことで、 なぜ、 この世にたった二人のキョウダイが言葉を交わさずにいるのか、と。 だから、高校生活最期の行事に臨んで、貴子は小さな賭けをした。 トオルに話しかけるという、小さくて、とても大きな賭けを。 級友や親友達のおせっかいや勘違いや手助けやおまじないの手助けまで借りて、 貴子とトオルの距離はせばまっていく。 外を歩き続ける。 日常の様で、非日常の しかしたった24時間程度の 限られた時間の中で 二人の間にあった何かが ゆっくりと溶け出していく。 輪郭のあやふやな 優しいヨルの間に。 溶け出した何かが、 二人を遠ざける何かではなく、 二人が共に踏みしめられる何かへと姿を変えるまで物語。 このままでは、一生言葉を交わさないまま終わってしまうかも知れない。 そんな畏れは、身近にあるものだと思う。 貴子は、このまま卒業すれば、トオルと言葉を交わす機会は二度と無いだろうと覚悟していた。 互いの進路は違ったから。 トオルに話しかけなくても、 貴子は生きていけたろう。 だとしたら、憎しみの視線まで浴びていたのに、貴子はトオルに話しかけようとしたのだろう? 歩くというのは素敵なこと。 行き先が決まっていても、 行き先を特に決めていなくても。 自分が歩きたい時に歩き、休みたい時に休み、その時々の風景を楽しめるなら尚更だ。 傍らに、最も自分が望む人がいてくれるなら、最高だろうと思う。 人生は暗闇の中を、いつ終わるとも知れぬ道を歩き続けるようなもの。 伴侶は確かに腕取り合って歩を進める間柄なのかも知れない。 人生の局面で都度出会っていく友人達は、そんな暗い道の足元を照らしてくれる灯火。 けれどもっと直接に、互いを支え合っていける関係がある。 それが家族というものだったとして、 ずっと言葉を交わせなかった二人が、 そんな当たり前の"家族"になれるまでを描いた物語です。 『夜のピクニック』(著:恩田陸)を読んで お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.10.17 02:03:47
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