五秒間の風景
午後八時過ぎの帰り道。歩道で二人組の男が、夜間交通整理に着用する蛍光ストラップ付きの上着を羽織りながら談笑していた。さてはと思い、傍らの車道に目を転じると、トラックが数台連なって停まっていた。先頭のトラックが一番大きく、荷台にはおなじみの車線変更電光板を積んでいた。そのトラックと次のトラックの間には、先ほどの二人と同じ上着を着た別の男が、うつむき加減に何かをしていた。じょぼじょぼという音と彼の足元に出来た水溜りで、彼が用を足しているのだとわかったが、子供の頃建築現場を手伝わされて、ある程度には慣れっこになっている自分でも苦笑した。なにせ、すぐ脇を片側二車線の道路が走っているのである。車の往来も激しいし、信号が近いから徐行したり止まったりもするのだから。慣れとは怖いもんだと思いつつ、その面前で小用を足されていたトラックの荷台には、車の往来を制限するくたびれた朱色のコーンが数十本と、電気コードリールがざっと七個くらい見えた。よほど遠くから電気を引くのだろうか。どこか民家から引かせてもらったとして、料金はどのように弾き出すのだろう?そんないらぬ考えを他所に、次の四人運転座席のトラックの前列シートに座った二人の、片方は眠り込んでいたが、片方はダッシュボードに両足を乗せてたばこをふかしながら、こちらをぎろっと小睨んだ。ように見えた。彼らのトラックの荷台には、アスファルトの路面を均すランマーと呼ばれる機械達が、じっと深夜の出番を待っていた。そんな、距離にして十メートル。時間にして五秒くらいの間にすれ違った景色の空には、半身の閏卯月が佇んでいた。梅雨の季節の雲一つ無い夜空に浮かんだ、白い分度器の様に見えた。まるで空の垂直をその直線部分で測っているかの様に、見えた。