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カテゴリ:物語
㉚
デービスは家に帰って、お母さんに学校のことを報告している。これは毎日の日課だ。 「e-スポーツの大会に出るのに無理やりチームを組まされたよ、僕はひとりで戦いたかったのに」 「e-スポーツ大会はチームで戦うのが決まりだろ。お前そんなことも知らなかったのかい」 「そんなことはわかっているよ、でもPAIは個人で使うもんだろ、チームで戦うなんて意味がないよ」 「ひとは一人じゃ生きていけないからね、それで人間同士が協力し合うためにe-スポーツ大会があるんじゃないかい」 「きれいごと言ったって、ひとは一人で生きていくんじゃないか」 「おまえは生意気なことばっかりいうね。まあ早く稼いでくれることに越したことはないけれど。それでどんな子と組んだのよ」 「僕は誰とも組みたくなかったから、残ったカスみたいなやつ」 「カスみたいて、どんな子なんだい」 「頭の大きい女の子」 「頭が大きいってことは、頭がいいのじゃないかい」 「そうじゃなくて、髪の毛が頭の上まで…こんなあるんだ。だからつけれれたニックネームがクエスチョンなんだ」 「クエスチョン?」 「そう、その?なんだ、頭がそんな感じだから」 「変わった子なんだね」 「もうひとりは、いつもマスクをしている女の子」 「その子はできるのかい」 「さあできないんじゃない。クエスチョンもそうだけどこの子もおしゃべりしているところ見たことないもの」 かあさんは、ここでため息をついた。 「クエスチョンにマスクか頼りにならなそうだね。で、あと一人は」 「もういないね」 「四人で一組じゃないのかい」 「その二人しか残ってなかったんだ」 「もっとクラスの子と仲良くしとけばよかったのに、おまえは本当に要領が悪いよ」 「あと一人はジェームス先生が入ってくれるって、僕はどちらでもよかったのだけど」 「先生が入ってくれるって、それはすごいことじゃないか、おまえは優秀だから先生に見込まれているんだね」 かあさんは一気に気をよくして、夕食の準備に力が入った。 ジェームス先生はうちに帰って夕食を終えると、いつもなら子供と遊ぶのに早々に自室に引きこもった。子供はつまらなそなそぶりをしていたが、かまってやる余裕はなかった。 自室に入ると、さっそくマリエの映像を見た。ほかの子となにが違うのか。J地区の子だからなのか、たしかにこの地方ではJ地区の人間は珍しい。しかし初めて見るというわけでもない。やはりあの頭か、あれがなにか神秘的にみせている。普通の髪にすれば普通の子供に見えるのではないか。それとも自分の心の底にロリターコンプレックスというのがあるのか。いままでそんなふうに子供を見たことはない。彼は首を静かに横に振った。子供がかわいいと思うのは大人の正常な感覚だ。子供がかわいいと思うから、今の職業に就いたのだ。ではなぜあの子だけがと、また最初の問いかけに戻ってしまう。あの異質な感じが心理的なコンプレックスを与えているのだと彼は結論づけた。人間は異質なものを排除したがる。あるいは異質なものとして排除されたがるものなのだ。まずあの子が人間かロボットかを見極めればいいんだ。そう考えるとジェームス先生は、少し心が休まった。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019.12.23 00:54:15
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