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カテゴリ:物語
3-17
マリエはやっと眠りについたようである。マーガレットはどうだろうか、ちょっと覗いてみよう。彼女はトムを抱いて寝ていた。しかし、眠ってはいない。なにか呪文のようなものを唱えているようである。いやそれは呪文ではない。コンピュータの言葉である。コンピュータのプログラムを作る言葉で、トムに直接命令を与えているのである。人間の言葉で命令すると、そのAIの持っている能力内でしかロボットを動かすことができない。しかし機械語で直接命令プログラムを作れば、そんな制限を受けずに自由にAIを動かすことができることになる。しかしAIのソフトを組むということは、そうとうの知識と経験がないとできない。マーガレットは頭のいい子なんだろう、ベットの中でそんなことができるのだから。 (トム、これがお前の最後の仕事だよ、朝が明ける前にわたしの胸に戻っておいで、わたしは眠っているから) マーガレットは眠った。トムは動いた。 トムが暗闇の中で向かった先はマリエの隣、あの呼吸器を付けている女の子のベット。トムはベットに這い上がり、女の子の呼吸マスクを外した。女の子は苦しんだのだろうか、それは分からない。 朝の巡回の看護師が、マスクが外れていることに気づき、騒動になった。女の子はすぐに集中治療室に運ばれた。 先生や看護師や職員のひとが女の子のベットの周りで小声で話している。 自分では外せないマスクがどうして外れたのかということを話しているみたいである。 「この子がやったのよ、夜中に動けるのこの子だけよ」 マーガレットがマリエを指して叫んだ。 大人たちがいっせいにこちらを向いた。 マリエは虚をつかれて、アイスキャンディーのように固まった。 「ひとごろし、こわいひと」 アイスが溶けてべっとりするような汗がマリエの体にまとわった。 マリエはなんてひどいことをいうのかとマーガレットのベットに詰め寄った。 「こわいよ、このひとこわいよ」 マーガレットはトムを抱えて、ベットにもぐりこんでしまった。 「なにを言うのよ!あたしは何もしていないよ、夜中にちょろちょろ動いて何かやったのは、あなたのロボットでしょ」 マーガレットが突然ベットから起き上がっり、そしてマリエに向かって強い口調で言い放った。 「マスコットのトムが動けるわけがないでしょ」 マーガレットはトムを目の前に差し出した。 「そうですよね、先生」 突然言い争いになったので、心配顔で先生が近くまできていた。 「そうだねそれはロボットではなくマスコットだね、ロボットの病室持ち込みは禁止だからね」 たしかに、目は動いたり光ったりしそうにもないし、腕や足もだらんとしたままでロボットには見えない。 「このひとうそつきだわ、自分の仕業なのにひとに罪をなすりつけるなんて最低、こんな恐ろしい人とは一緒にいたくない」 あれがロボットでなく人形だなんて、嘘だわ。マリエはマーガレットの手から、それを奪おうとした。 「なにするのよ、またわたしのトムにひどいことをするの、悪魔」 マーガレットはまた亀のようにベットの中に引っ込んでしまった。 「先生助けて、その悪魔を何とかして」 先生はマリエの肩を押さえた。 「さあ、君もベットに戻って」 マリエは重いボールを投げつけられ、投げ返せないままでベットに戻った。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.07.15 23:01:25
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