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2005/05/22
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カテゴリ:犬のこと
まだリリ子が若くて元気でバリバリ山に入って走り回っていたころ、父ちゃんの猟仲間に、素敵なおっちゃんがいました。
そのおっちゃんが飼っていた猟犬が「ウ゛イ」。

ブラウン×ホワイトの素敵な男の子でした。

おっちゃんは、独り者でした。
ウ゛イと二人暮らしでした。
おっちゃんとウ゛イは、不思議な絆で結ばれていました。
テレパシーでなんでも通じあっているような感じでした。

ウ゛イは、おっちゃんを引っ張ることはありません。
いつもおっちゃんの横にくっついて、二人同じ歩調で歩いていました。
アイコンタクトもなく、言葉もコマンドもなく、でも、おっちゃんが立ち上がるとウ゛イも立ち上がり、おっちゃんが歩き出すと、ウ゛イも歩き出し、おっちゃんが立ち止まると、ウ゛イも立ち止まる。

私がリリ子を連れて遊びにいっても、おっちゃんが、「おう!リリーちゃんと遊んであげんさい、ウ゛イ」というまで、じっと横になってました。

おっちゃんが「マテ」のコマンドを出すと、ウ゛イはその場にじっとしていました。
本当に一年でも二年でも待っていそうな感じでした。

河原での訓練は、いつも圧倒されました。
おっちゃんの号令で、フィールドを切るウ゛イの姿は誇り高く、おっちゃんのパートナーであることをとても誇りに思っているのが、伝わってきました。

道を歩く姿も、おっちゃんとウ゛イにはリードが必要ないんじゃないかと思える程でした。

私は、この二人に、幼いながら、とても憧れました。
リリ子とは姉妹のように育ち、ちゃんと絆は結ばれていましたが、おっちゃんとウ゛イの間にあるような完全無欠の信頼関係があったかというと、はっきり答えられません。

おっちゃんのような飼い主になりたい。
ウ゛イのような犬を育てたい。
この時、私が将来なりたいと思っていた職業はハンドラーでした。

先代まぐろを見た時、「この子は、私のために来た子だ」と感じて、私がいつも傍にいるようにしたのは、多少、ウ゛イへの憧れもあったのかもしれません。

幸いなことに、先代まぐろは、おっちゃんとウ゛イに近い感覚を私に与えてくれました。
ただ、あの、「このヒトにオレの一生を捧げるんだ」というウ゛イの瞳には、ついに、先代まぐろもなることはありませんでした。

おっちゃんにお見合い話が、持ち上がった時、おっちゃんは、それを断りました。
先方が犬があまり好きではなく、今までのような生活は送れないというので、おっちゃんは、ウ゛イとの生活を選んだのでした。

それから、リリ子が亡くなり、ついにウ゛イも亡くなりました。
でも、おっちゃんは、結婚するにはとても年齢をとってしまっていました。
とはいえ、おっちゃんは、後悔していませんでした。
焼き場の動物慰霊碑にウ゛イをまつった日、おっちゃんは、ぽつりと言いました。
「もう、ウ゛イのような犬には出会えんな。ウ゛イのおかげで、わしは幸せな猟師になれた」

それからほどなく、おっちゃんは山の中に引っ越しました。
ウ゛イとの思い出の家をあっさりと出てしまいました。
私はその時、おっちゃんの気持ちが分からなかった。
でも、一度だけ、おっちゃんがポインターの子犬を抱いて訪ねてきてくれたことがあります。
「新しいウ゛イだ」

その時、私は理解しました。
おっちゃんは新しい一歩のために、引っ越ししたのでしょう。
ウ゛イとの思い出から逃げたのではなく、新しく一歩を踏み出すための角出だったのです。
あの家で暮らすには、ウ゛イとの思い出は強烈すぎたに違いありません。

おっちゃんと二代目ウ゛イとがどうゆう暮らしをしたのか、私には分かりません。
でも、子犬に「ウ゛イ」と名付けたおっちゃんの気持ちは、少しだけ分かります。

私も、運命の出会いをした、このぶちぶちのパートナーに、「まぐろ」と名付けたのですから。



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Last updated  2005/05/23 02:14:12 AM
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