読書の部屋からこんにちは!

2008/01/20(日)07:54

「メタボラ」 桐野夏生

小説(215)

いかに本好きの私といえど、この本は外出先に持って出ることができませんでした。 あまりの厚みと重さに、びっくりです。 たいした厚みもないのに、上中下巻に分かれている本も多いというのに(例えばダヴィンチ・コードの文庫とか)なんでこの本は一冊になったんだろう。著者の意図か、はたまた出版社の陰謀か・・・と文句を言いつつ読み始めましたが、外出先にもって行く必要はありませんでした。というのも、あまりのおもしろさに、一日半ほどで読んでしまったからです。 主人公は、過去のすべてを忘れてしまった青年です。 次第に思い出す彼の過去は、悲惨で救いのないものでした。過去を持たない新しい人間として生きていこうとする彼ですが、現実はやはり難しく悲しいことばかりです。 偶然彼の相棒となった宮古出身のアキンツは、底抜けに明るくノーテンキ、だけど、無類の純情青年です。彼もまた、現実のつらさに苦しめられます。 彼らに関わってくる周囲の人々も、若者ばかりで、みんな若さゆえの苦しさの中で生きている。その中で異質なのが、若者たちのカリスマみたいなイズムと、それに対抗するカマチン。この二人が、しっかりしているように見えて、本当は一番のアマちゃんで頼りないんじゃないかという気がしました。 若いうちからそんなに、何もかも分かったフリをしなくてもいいんだよ。もっと苦しんで傷ついてカッコ悪いほうがいいんだよ、って言いたくなりました。 他の方はどういうふうに受け取ったのかなあ。 感動というのでもない、余韻に浸るというのでもない、ただ若さの持つ温度の高いエネルギーと、若者を取り巻く過酷で暗い状況と、宮古のはじけるような明るい方言とが、渦巻いているような読後感です。 家族と話していても、「なんとなんと」とか「オゴエッ」とか、つい口から出てしまいそう。とてもリズミカルな方言でおもしろい。ほんものを聞いてみたいです。 温度と湿度の高い小説ですが、この本の表紙がまた、内容にぴったりで感心しました。 表紙も含めての作品、という気がします。              

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