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この惑星を自ら滅ぼさないために、太陽と地球のふしぎな関係を「広く視ること」が大切だ。(286ページより)
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著者・編者 | 上出洋介=著 |
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出版情報 | 講談社 |
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出版年月 | 2011年08月発行 |
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原発をオーバーヒートさせ、人工衛星を制御不能にし、伝書バトを惑わせるのは、太陽のせいだった。しかし、コロナがなぜ 100 万度の高温なのか、オーロラはなぜ夜側に発生するのか、太陽については分からないことだらけだ。
著者は、太陽・地球環境の第一人者の上出洋介さん。
本書では、「母なる太陽」の苛烈な実像、絶対君主としての太陽の姿が科学的根拠に基づいて解説されている。
印象的なのは、現在の地球温暖化の主たる要因をつくっているのは人類だが、太陽=地球のスケールでは、簡単にオゾン層破壊や寒冷化をもたらす可能性があるということ。「ガウスが初めて測定に成功して以来、この 200 年近くもの間、地球の磁力は着実に減っている」(204 ページ)という点も不気味だ。
一方で、「私たちの文明社会、とくに最近のコンピュータや通信技術は、宇宙天気による損害を受けやすくなる方向に発展してきた」(252 ページ)とも指摘する。太陽活動は 11 年という比較的長い周期で変動するので、次に太陽活動が極大になるころ、システムやネットワークにトラブルが発生しないとも限らない。
太陽についてはある程度知っていたつもりだが、本書では幾つかの新しい知見が得られた。
たとえば、地球磁場のブラジル異常――ブラジル上空のバンアレン帯が高度 200 キロという低さにあるとは知らなかった。
太陽フレアによって大規模な磁気嵐が喚起されることは知っていたが、その熱により大気が膨張し、人工衛星の軌道を狂わせたり、宇宙ゴミを地球に引き寄せるとは知らなかった。
また、静止衛星が高緯度をカバーできないということは知っていたが、北極航路を飛ぶ航空機が、その区間では短波通信に頼らざるを得ないということも初めて知った。磁気嵐が起これば短波通信も途絶するし、そのエリアには飛行場も少ないから、宇宙天気を知ることは重要だろう。
宇宙天気の変化による損害を補填するために、宇宙保険というビジネスもあるそうだ。