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救急医療がペイしないというのは真っ赤な嘘さ。うまくやればこれほど儲かるエリアはない。でもお役所仕事では絶対に成立しないのさ。(50ページより)
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著者・編者 | 海堂尊=著 |
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出版情報 | 朝日新聞出版 |
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出版年月 | 2011年12月発行 |
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著者は、外科医、病理医を経て、独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センター Ai 情報研究推進室室長になった海堂尊さん。2006 年、映画にもなった『チーム・バチスタの栄光』で小説家デビューを果たした。
本作は『極北クレイマー』の続編。前作で財政破綻した極北市の病院再建請負人として市民病院長に着任した世良雅志と、外科医の今中良夫の日常が中心に話が展開していくが、前作を読んでいなくても楽しめる。
実際に破綻した夕張市への取材を敢行し、ドクター・ヘリの導入や道州制論議といった現実世界で進行中の問題を小説の背景設定に組み込むのは海堂ワールドの真骨頂。
さらに、『ジェネラル・ルージュの凱旋』で極北救命救急センターへ左遷された速水晃一と花房美和や、『モルフェウスの領域』にも登場する天才技術者・西野昌孝が活躍する。これらの海堂ワールドを読んでいる方には、さらに楽しめること請け合い。
病院再建請負人として院長に着任した世良雅志は、救急患者を一切受け付けず、極北救命救急センターへ回すように命じる。極北救命救急センターの副センター長は、東城大学医学部の後輩・速水晃一だ(このあたりの事情は『ブラックペアン 1988』に詳しい)。一方、訪問看護に力を入れる。
世良は笑顔でこう言う。「そうだよ。当たり前のことを当たり前にやれば、ものごとは破綻しない。特に医療のように、人々から必要とされるものならなおさらだ。じゃあ、なぜ破綻するのか。簡単さ。最初の設計が間違っているからだ。医療が壊れるとしたら、大穴の開いているバケツに水を注ぎ続けようとする、大バカ者たちのせいさ」(326 ページ)。
ところが、診療費不払いのために世良が診察拒否した患者が急死する事件が起きる。それまで世良を救世主として持ち上げていたマスコミは、一転してバッシングへ転じる。
そんな中、極北救命救急センターへ派遣された今中は、患者の命を救うために日夜努力するスタッフたちに、「いのちが助かるか、失われるかは時の運。いちいち結果を気にしていたら、僕たちみたいな凡人医師は保たない」(113 ページ)と語る世良とは正反対の世界を見る。だが、速水は「世良先生は病んだ社会にメスを振るおうとしている。ならば俺はその手のひらからこぼれおちる命を拾い上げる。つまり、これは役割分担なんだ」(147 ページ)と、今中を諭す。
そして、ドクタージェットの試験飛行で神威島へ降り立った世良は、18 年ぶりに会った久世敦夫医師を前に、苦しい心の内をさらけ出す。
本作はミステリーではなく、世良・速水・花房を中心とした医療サイドの人間関係に、大月・越川という職人根性を持った人々が絡み合う、人間ドラマ仕立てになっている。
『ジェネラル・ルージュの凱旋』でドクター・ヘリの導入に心血を注いでいた速水が、極北のドクター・ヘリに乗りたがらないという設定も面白い。