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現状のIT予算を10%減らし、それを出張費にまわすことをおすすめする。(187ページより)
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著者・編者 | 遠藤功=著 |
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出版情報 | 日本経済新聞出版社 |
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出版年月 | 2011年11月発行 |
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著者は、Intel 出身でドリーム・アーツを設立した IT プロフェッショナルの山本孝昭さんと、コンサルタントの遠藤功さん。「IT によって結果的に生み出される不利益が利点ををかき消すほどになっているのに、IT への過度な依存を改めることができず、無自覚に被害を拡大している現状に危機感を抱いたから」(4 ページ)本書を著したという。
山本さんと遠藤さんは、IT が生産性を大幅に下げている現象を ICF と BLT と名付ける。ICF は Information and Communication Flood(情報とコミュニケーションの洪水)――文字通り、CC で送られてくる大量のメールと、コピペで作成された大量の資料を指す。そして、BCT とは「バカのロングテール」――どうてもいい些末な情報を、さも大事であるかのように報告する動きを指す。このネーミングは面白い。
ICF や BLT により、「事実を知ったと錯覚し、実際には与えられた事実の断片的情報を、現場感なしに鵜呑みにするだけとなってしまう」(68 ページ)と警鐘を鳴らす。
これには同感だ。とくに、現実の社会経験がとぼしい子どもたちが中心の教育現場では、できれば IT は使わないほうが良い。生の体験を多く積ませるべきだ。その意味では、日本企業が大切にしてきた「三現主義」(現場・現物・現実)は、教育現場でも重要視すべきだ。
著者たちはまた、IT がツールであると主張する。したがって、「IT を主役の座に押し上げる CIO などというポストは不要」(117 ページ)と断じる。
私も IT 業界に 25 年ほどいるが、先輩から「IT は魔法の杖ではない」と戒められたことがある。この言葉の意味は、IT を導入すれば何でもできるというというのは幻想だということ。もうひとつの意味は、IT プロフェッショナルは魔法使いのような超人的能力を持っているわけではないということ。
IT は所詮はツールに過ぎない。それを使う人次第だということだ。
後半では、職場でメールや PC を使わない「IT 断食」の処方箋を示している。
ただ、これは、少なくとも私の職場ではやらない方がいいと思った。営業や技術担当者が全国各地に散らばっているし、そもそもシステム製品を導入する立場にある人間が、IT 断食をしたのでは仕事にならないからだ。
Excel は資料作成の頼もしい味方だし、洪水のように押し寄せる CC メールはフィルタリングでかわしていける。
ただ、本書を読む前から、スケジュールは手帳に、会議時のメモ取りは B5 ノートにしている。リアルな人と会う約束や会話は、アナログで記録した方が、自分としては整理しやすいと感じているからだ。
「枚数ばかりが多い資料は、作成に手間がかかるうえ、プリントアウト代もばかにならない」(186 ページ)と述べられているが、たしかにシステム屋が作る資料はページ数が多くなりがちだ。5 年前の私も、PowerPoint で膨大なプレゼン資料を作っていた。だが、あるとき、IT コンサルタントが行ったプレゼンに負けた。相手は A3用紙1 枚の資料で臨んできた。その資料はプロのデザイナーに作成させたものだったのだ。以来、私はプレゼン資料のページ数減らすことを心に誓った。
最後に、ダイキン工業の取締役副社長である川村群太郎氏の言葉として、「IT は、手段として手助けにはなりますが、重要なのはそこではありません。結局、人は強い思いがあるからこそつながり、力になるんです。その思いが人を成長させ、組織を成長させるのだと思います」(210 ページ)と結んでいる。