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もし、19世紀の科学者たちが「すぐに役に立つ研究」だけに取り組んでいたら、ほとんどの研究者が蒸気機関の改良などに集中してしまい、電磁気の研究は進まなかったでしょう。(286ページより)
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著者・編者 | 大栗博司=著 |
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出版情報 | 幻冬舎 |
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出版年月 | 2013年01月発行 |
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本書はヒッグス粒子発見の意義を説明するために、「質量とは何か」とか「力とは何か」といった物理学の基礎のところから説き起こし、数多くの物理学者が何世代もかけて築き上げた素粒子の標準模型の全貌を解説している。
ヒッグス粒子発見の方にワクワクした理系人間がいる一方で、400 億円の巨費を投じた LHC に眉をひそめる文系人間もいるかもしれない。
著者は、「ヒッグス粒子の発見も、人々の生活にどう役に立つのかはすぐにはわかりません」(286 ページ)とことわったうえで、「19 世紀に電子が発見されたときも、『こんな発見は何の役にも立たない』と言われたものです。にもかかわらず、現在の私たちの生活は、電子を使った技術を抜きに考えられないものになりました。もし、19 世紀の科学者たちが『すぐに役に立つ研究』だけに取り組んでいたら、ほとんどの研究者が蒸気機関の改良などに集中してしまい、電磁気の研究は進まなかったでしょう」と説明する。
理系人間も文系人間も、歴史に学ぶ姿勢は崩してはならない。
1番がいいとか、2番じゃダメなのかという議論ではない。
私たちは最近、すぐに役立つノウハウ、目先の利益を追い求めすぎていないだろうか。それが、わが国の逼塞した経済状況を作り出しているように感じる。
芸術や文学と同様、自然科学に惜しみない投資をできることが、ヒトがヒトたる由縁ではないか。