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2020.01.20
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カテゴリ:書籍
時間は存在しない

時間は存在しない

 わたしたちは、時間と空間のなかで構成された有限の過程であり、出来事なのだ。(170ページ)
著者・編者カルロ・ロヴェッリ=著
出版情報NHK出版
出版年月2019年8月発行

『時間は存在しない』というのは衝撃的なタイトルだ。本書はトンデモ本ではなく、相対性理論と量子力学の融合を試みる「ループ量子重力理論」の提唱者の一人で、イタリアの理論物理学者のカルロ・ロヴェッリさんが、一般読者向けにわかりやすく書き下ろした「時間」の概念を説いた啓蒙書である。

高速で運動すると時間が遅れるという特殊相対性理論、強い重力場では時間が遅れるという一般相対性理論、そして、量子論において時間の最小単位となるプランク時間――これまでの物理学で見えてきた「時間」という存在を振り返りつつ、時間の流れが過去から未来へ一方通行であるのはエントロピーが増大するためだと強調する。
ロヴェッリさんは、ループ量子重力理論を考える中で、エントロピーが増大して見えるのは、私たち自身と私たちが構築してきた物理学が、たまたまそういう宇宙の“一部”を見ているからだと主張する――これは新しい知見だ。
過去の痕跡があるのに未来の痕跡が存在しないのは、過去はエントロピーが低かったために起きる。エネルギーが熱へ変換するときに痕跡を残すのだという。

こうした外的な痕跡を、わたしたちの脳が処理するときに「時間」として感じる。記憶と予測の過程が組み合わさったとき、わたしたちは時間を時間と感じ、自分を自分だと感じるという。そして、時間は、わたしたちの苦しみの元となり、死の恐怖を生み出す。

アニメ『トップをねらえ!』最終回で、「もう同じ時は過ごせないのよ!」と叫ぶシーンがある。
大人になり親から独立すると、もう親とは同じ時間を過ごせなくなる。ネットワークを介して離れたところの時計は同じ時間を刻み、歴史的な痕跡も映像で共有できるというのに、時間は共有できなくなる。そして、自分の子供もいずれ‥‥。

難解で冗長な部分もあるが、巻末の「日本語版解説」を読んで振り返ることで、ロヴェッリさんが言わんとしていることが整理されると思う。
『時間は存在しない』というタイトルは、「この世界の時間構造がわたしたちの素朴なイメージとは異なるということ」(195 ページ)を意味している。

天文学や物理学は、現象が「時間の順序に従って」どのように起きるのかを理解しようとしてきた。しかし、相対性理論の結論として、観測系によって時間の進み方が変わることが予言され、その効果が観測されるようになった。
時間とは何であろうか――ロヴェッリさんは、クラウジウスが発表したエントロピーの法則を引き合いに、「過去のエントロピーのほうが低い」ということが、一方通行にしか進まない時間の特性だという。そして、ボルツマンの研究により、「過去と未来が違うのは、ひとえにこの世界を見ているわたしたち自身の視界が曖昧だから」(40 ページ)ということを提示する。

たとえば、地球から約 4 光年離れた惑星プロキシマ・ケンタウリ b で何をしているかを問うのは「意味がない」という。ちょうど、ヴェネツィアにいながら、「ここ、北京には何がありますか」と尋ねるようなもので、そんな問いにはまったく意味がないのだ。
ロヴェッリさんは、「わたしたちの『現在』は、宇宙全体には広がらない。『現在』は、自分たちを囲む泡のようなもの」(49 ページ)と指摘する。時間の誤差を人間が識別できる 10 分の 1秒くらいにすると、この泡の大きさは、せいぜい地球の大きさに過ぎない。
そして、ロヴェッリさんは、「何らかの形態の宇宙が『今』存在していて、時間の経過とともに変化しているという見方自体が破綻している」(60 ページ)という事実を突きつける。

次に量子力学へ目を向ける――。
「量子」とは基本的な粒のことであって、あらゆる現象に「最小の規模」が存在することを意味している。時間には最小幅が存在し、それは「プランク時間」と呼ばれている。つまり、プランク時間より小さいところでは、時間の概念は存在しない。もっとも基本的な意味での「時」すら存在しないのだ。

こうして、「時間」はひとつのものでなく、方向もなく、事物と切っても切り離せず、「今」もなく、連続でもないものとなった。
ここでロヴェッリさんは、事物は存在せず「起きる」ものだと説く。つまり、世界は不変のものではなく、変化している――「の世界は物ではなく、出来事の集まりなのである」(98 ページ)と主張する。
出来事同士の関係には時間的な構造があって、それらの出来事は断じて幻ではない。そこに「時間」を持ち込む必要はなく、互いに対してどのように変化するのかがわかりさえすればよい――これが、ロヴェッリさんが研究している「ループ量子重力理論」である。この理論には時間という変数がない。そして、物質や量子、重力場などを全て同じレベルで記述する。世界を首尾一貫した形で表そうというのではなく、あくまで、相互の関係を記述するのが目的だという。

エネルギーと時間には密接なつながり(共役)がある。宇宙はエントロピーが低いところから高いところへ向かっており、これが時間として認識される。
ロヴェッリさんは、宇宙のエントロピーが最初は低く、そのため時間の矢が存在するのは、おそらく宇宙そのものに原因があってのことではなく、わたしたちや、わたしたちが構築した物理学に原因があると主張する。「わたしたちはさまざまな宇宙の性質のなかのきわめて特殊な部分集合を識別するようにできていて、そのせいで時間が方向づけられているのだ」(146 ページ)。
過去の痕跡があるのに未来の痕跡が存在しないのは、過去はエントロピーが低かったために起きる。エネルギーが熱へ変換するときに痕跡を残すのだ。

ロヴェッリさんは、わたしたちが感じる「時間」は、自分の内部にある感覚だという。「記憶と呼ばれるこの広がりとわたしたちの連続的な予測の過程が組み合わさったとき、わたしたちは時間を時間と感じ、自分を自分だと感じる」(184 ページ)。アウグスティヌスやカント、フッサール、ハイデッガーが、それについて述べている事例を紹介する。
そして、時間は、わたしたちの苦しみの元となり、死の恐怖を生み出す。「わたしたちは過去や未来に苦しむのではなく、今この場所で、記憶のなかで、予測のなかで苦しむ。時さえなかったなら、と心から思い、時間の経過に耐える」(185 ページ)。

だが、ロヴェッリさんは前向きだ。この苦痛を感じることで、人間を人間たらしめている。







最終更新日  2020.01.20 14:23:19
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