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2020.06.27
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カテゴリ:書籍
人は科学が苦手

人は科学が苦手

 自分はただ事実を押し付けるだけになっていないか。(231ページ)
著者・編者三井誠=著
出版情報光文社
出版年月2019年5月発行

著者は、読売新聞の米ワシントン特派員として大統領選挙や科学コミュニケーション、NASA の宇宙開発などを取材した三井誠さん。トランプ大統領当選とアメリカの科学離れを取材し、その背景を探ろうとしている。
本書は、人は科学的に考えるのがもともと苦手なのではないか。現代人には石器時代の心が宿っているのではないか、という疑問から始まる。

三井さんはトランプ政権には批判的だ。進化論や地球温暖化会議派が力を付けてきたのはトランプ大統領の影響とし、オバマ前大統領の民主党政権と比較する。
ただ、ここで紹介している進化論や地球温暖化に関わる論点が、やや「非科学的」と感じた。
たとえば進化論を否定する創造説には、少なくとも 2 つの論点がある――世界誕生を 6 千年前としていること、それと進化説の否定である。前者については、地球上に 37~38 億年前の生物の化石が発見されている。放射年代測定という絶対測定法だから、これを否定するのは容易ではない。
一方、後者の進化説は仮説であり、まだ進化のメカニズムは明らかになっていない。ここに他の仮説を提示する「科学的余地」はある。
地球温暖化については、世界の平均気温が上昇しているのは事実であるし、二酸化炭素濃度が上昇しているのも事実である。だがしかし、人類の活動によって二酸化炭素濃度が増えているという確証がない。そして、今回の温暖化はミランコビッチ・サイクルと関係ないという確証はあるだろうか。

ユヴァル・ノア・ハラリ氏は『サピエンス全史』において、7 万年前にアフリカ大陸を再出発したホモ・サピエンスは「認知革命」を起こし、チンパンジーなどの「群れ」とは比較にならない大規模な組織を統率できるようになったと書いている。これは、『世界神話学入門』で後藤明さんが紹介する「ローラシア型神話」にも通じる部分がある。
すべての人類に石器時代の心が宿っているわけではなく、認知革命を達成する以前の種と、達成した後の種の混血しているのではないだろうか。

終盤に、科学者のコミュニケーション能力を高める必要性が説かれている。この点には同意する。
本書でも紹介のあったカール・セーガン氏が来日した際、高校生だった私はその講演を聞きにいった。あれから 40 年、科学技術の道を進んでくることができたのは、そうしたコミュニケーションのおかげである。今度は、私から後輩へバトンを渡さねばなるまい。

三井さんは冒頭で、トランプ大統領誕生の瞬間を「地球温暖化を否定する大統領の誕生は、想像を超える出来事でした」(4 ページ)と語る。三井さんは「取材を繰り返すうちに、人は科学的に考えることがもともと苦手なのではないか」(10 ページ)と考えるようになったという。人類が進化の末に獲得した「生きる知恵」と、科学が発達した現代社会に求められる「生きる知恵」には、根本的なずれがあるのではないか、というのだ。

カハン教授(カナダの数学者で計算機科学者。カリフォルニア大学バークレー校の名誉教授)は、知識が増えれば増えるほどわかり合えなくなる状況を「汚染された科学コミュニケーション環境(polluted science communication environment)」と呼ぶ。確証バイアスや、インターネットなど外部の情報による「フィルター・バブル(Filter Bubble)」がその好例だ。
「賢い愚か者」効果の名付け親、クリス・ムーニー氏は、科学的に考えることができない心の動きを、「自分の子どもがいじめに加担していることや、結婚生活が終わりを迎えつつあることを認めたがらない心の動きと同じだ」と指摘した。

カリフォルニア大学サンタ・バーバラ校のジョン・トゥービー教授は、人類の心を「現代に生きる私たちに、石器時代の心が宿っている」と表現する。英国の人類学者ロビン・ダンバー博士が 1990 年代、人類がうまく人間関係を維持していける集団の人数は 150 人とする研究成果を発表したが、現代人が扱える人間集団の数はそのままだという。
ジャーナリストのリック・シェンクマン氏は、石器時代、小さな集団で暮らした野生の生活では、「恐れ」と「怒り」が重要な役割を果たしていたと指摘する。大統領選で、トランプ陣営は「恐れ」と「怒り」を効果的に利用した。

地球が平らだと信じる人たちは、他人よりも「自分は論理的だ」と考える傾向が強く、政府や公的機関への不信感も強く、疑り深い性格だという。自分は公式見解にだまされるほど、愚かではないといった感じで、政府などが共謀して事実を一般市民から隠しているという「陰謀論」を信じやすい特徴もある。
ハーバード大学のナオミ・オレスケス教授(科学史)は、米国の民主主義の源流には、欧州の貴族主義への反発がある。だから、私たちは国王を持たない。歴史的にエリートや専門家に懐疑的になるという感情が米国にはある。一方、権威への反発は容易に、知性への反発に転がり落ちてしまう」(87 ページ)と指摘する。

国際UFO 博物館のジム・ヒル事務局長(66)は、UFO 人気について「アメリカ人はもともと政府への不信感が強い。だから、いくら政府が UFO の存在を否定しても、UFO 人気は衰えない。事件の情報を伝えるのが我々の役目だ」と語る。
自分の考えと対立する話を聞いた時に、考えを変えるのではなくムキになって反論してさらに自分の思いを強くすることを、心理学では「バックファイア効果」と呼ぶ。アメリカ人はバックファイア効果が強いのではないだろうか。

ミシガン州立大学のアロン・マクライト教授は、1990 年代以降、共和党が環境政策を受け容れなくなったのは、冷戦終結により、保守系メディアやシンクタンクがそれまでの「赤の恐怖」の代わりに「緑の恐怖」を主張するようになったことと、国際社会からの環境問題に対する要請そのものに反発が起きたからだと指摘する。地球温暖化問題は、もはや科学の問題ではなくなった。
2010 年の予備選で落選したイングリスさんは、「地球温暖化を認めたことで、私は共和党という部族(tribe)のなかで異端の存在になってしまった」と言う。炭鉱経営者のジョンソンさんは「結局はどちらの側に付くかという問題だ」と、敵か味方かという構図で地球温暖化問題をとらえている。

科学への不信を募らせる人たちに共通する特徴は、保守的な政治信条のほかに、教会に行く頻度が多いことが挙げられる。
全米科学財団は 2016 年、「私たちは科学に頼りすぎていて信仰が十分ではない」との考えに同意するかどうかを聞いた国際調査の結果を発表した。米国では 50.4%とほぼ半数が同意し、ほかの先進国と比べて信仰に重きを置く傾向がある。日本は 3.9%だった。
ギャラップ社の世論調査(2017 年 5 月)によると、「神が過去 1 万年のある時に人類を創造した」との考え(創造論)を支持する回答が 38%に上ったという。子どもたちに決めさせるというのは一見、選択の自由を提供して民主的な感じがする。しかし、創造論と進化論を同じレベルに扱って「お好きなほうをどうぞ」というのは、生物学の授業では問題だろう。
最高裁で憲法違反とされた創造論教育は、ID説、創造科学と名を変え、今も、米国の公立学校に広く浸透している。日本では、国(文部科学省)が教科書を一言一句まで厳密に調べて、画一的な教育の質の確保を目指しているが、そうした発想は米国にはない。

多くの研究者はコミュニケーションに消極的なだけでなく、コミュニケーションに熱心な研究者を低く評価する傾向も指摘されている。そんな傾向は「セーガン効果」と呼ばれる。名前は、1980 年に放送されたテレビ番組『コスモス』などで知られるカール・セーガン氏に由来するが、セーガン氏は学術界での評価が必ずしも高くなかった。
第二次世界大戦後、国からの資金で大規模な科学研究が勧められるようになると、科学者は大学や政府ばかりに気を配り、人々に科学を伝える動機がなくなり、逆に避けるようになったという。科学者の間に特権意識が生まれ、一般人は、そこに陰謀があるのではないかという誤解の種を植え付けることになった。

連邦議員のスタッフを長年勤めてきたマーク・バイヤー氏は古代ギリシャの哲学者アリストテレスの言葉を引用して、情報を伝える上で重要なことを紹介する。つまり、
+ロゴス(Logos=論理)‥‥論理的であり、事実であること。
+エトス(Ethos=信頼)‥‥聞き手と話し手の信頼関係。
+パトス(Pathos=共感)

テキサス工科大学のキャサリン・ヘイホー教授は、地球温暖化懐疑派の主張を「本当の意図を隠す煙幕だ」と指摘する。「規制が嫌いだから」という本心を隠す煙幕だというのだ。だから、彼らを「反科学(anti-science)」と呼ぶと、状況は絶望的になる。

俳優のアラン・アルダさんは、「人の話を聞く時には、自分の考え方をすすんで変えるような姿勢で聞かなければならない。そうでなければ、本当の意味で『聞く』ということにならない」とアドバイスする。

三井さんは本書をこう締めくくる――(231 ページ)
反対している人たちは何を心配しているのか。
自分はただ事実を押し付けるだけになっていないか。
お互いの心を結び付ける何かを見つけ出せないか。
科学を巡るコミュニケーションでも、気持ちを大事にすることで誤解を解きほぐす道が開けるのかもしれない。







最終更新日  2020.06.27 15:34:51
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