|
カテゴリ:書籍
著者は、読売新聞の米ワシントン特派員として大統領選挙や科学コミュニケーション、NASA の宇宙開発などを取材した三井誠さん。トランプ大統領当選とアメリカの科学離れを取材し、その背景を探ろうとしている。 三井さんはトランプ政権には批判的だ。進化論や地球温暖化会議派が力を付けてきたのはトランプ大統領の影響とし、オバマ前大統領の民主党政権と比較する。 ユヴァル・ノア・ハラリ氏は『サピエンス全史』において、7 万年前にアフリカ大陸を再出発したホモ・サピエンスは「認知革命」を起こし、チンパンジーなどの「群れ」とは比較にならない大規模な組織を統率できるようになったと書いている。これは、『世界神話学入門』で後藤明さんが紹介する「ローラシア型神話」にも通じる部分がある。 終盤に、科学者のコミュニケーション能力を高める必要性が説かれている。この点には同意する。 三井さんは冒頭で、トランプ大統領誕生の瞬間を「地球温暖化を否定する大統領の誕生は、想像を超える出来事でした」(4 ページ)と語る。三井さんは「取材を繰り返すうちに、人は科学的に考えることがもともと苦手なのではないか」(10 ページ)と考えるようになったという。人類が進化の末に獲得した「生きる知恵」と、科学が発達した現代社会に求められる「生きる知恵」には、根本的なずれがあるのではないか、というのだ。 カハン教授(カナダの数学者で計算機科学者。カリフォルニア大学バークレー校の名誉教授)は、知識が増えれば増えるほどわかり合えなくなる状況を「汚染された科学コミュニケーション環境(polluted science communication environment)」と呼ぶ。確証バイアスや、インターネットなど外部の情報による「フィルター・バブル(Filter Bubble)」がその好例だ。 カリフォルニア大学サンタ・バーバラ校のジョン・トゥービー教授は、人類の心を「現代に生きる私たちに、石器時代の心が宿っている」と表現する。英国の人類学者ロビン・ダンバー博士が 1990 年代、人類がうまく人間関係を維持していける集団の人数は 150 人とする研究成果を発表したが、現代人が扱える人間集団の数はそのままだという。 地球が平らだと信じる人たちは、他人よりも「自分は論理的だ」と考える傾向が強く、政府や公的機関への不信感も強く、疑り深い性格だという。自分は公式見解にだまされるほど、愚かではないといった感じで、政府などが共謀して事実を一般市民から隠しているという「陰謀論」を信じやすい特徴もある。 国際UFO 博物館のジム・ヒル事務局長(66)は、UFO 人気について「アメリカ人はもともと政府への不信感が強い。だから、いくら政府が UFO の存在を否定しても、UFO 人気は衰えない。事件の情報を伝えるのが我々の役目だ」と語る。 ミシガン州立大学のアロン・マクライト教授は、1990 年代以降、共和党が環境政策を受け容れなくなったのは、冷戦終結により、保守系メディアやシンクタンクがそれまでの「赤の恐怖」の代わりに「緑の恐怖」を主張するようになったことと、国際社会からの環境問題に対する要請そのものに反発が起きたからだと指摘する。地球温暖化問題は、もはや科学の問題ではなくなった。 科学への不信を募らせる人たちに共通する特徴は、保守的な政治信条のほかに、教会に行く頻度が多いことが挙げられる。 多くの研究者はコミュニケーションに消極的なだけでなく、コミュニケーションに熱心な研究者を低く評価する傾向も指摘されている。そんな傾向は「セーガン効果」と呼ばれる。名前は、1980 年に放送されたテレビ番組『コスモス』などで知られるカール・セーガン氏に由来するが、セーガン氏は学術界での評価が必ずしも高くなかった。 連邦議員のスタッフを長年勤めてきたマーク・バイヤー氏は古代ギリシャの哲学者アリストテレスの言葉を引用して、情報を伝える上で重要なことを紹介する。つまり、 テキサス工科大学のキャサリン・ヘイホー教授は、地球温暖化懐疑派の主張を「本当の意図を隠す煙幕だ」と指摘する。「規制が嫌いだから」という本心を隠す煙幕だというのだ。だから、彼らを「反科学(anti-science)」と呼ぶと、状況は絶望的になる。 俳優のアラン・アルダさんは、「人の話を聞く時には、自分の考え方をすすんで変えるような姿勢で聞かなければならない。そうでなければ、本当の意味で『聞く』ということにならない」とアドバイスする。 三井さんは本書をこう締めくくる――(231 ページ) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2020.06.27 15:34:51
コメント(0) | コメントを書く
[書籍] カテゴリの最新記事
|