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カテゴリ:書籍
もし一定程度以上の知能を有する知的生命だけが訪問・滞在を許される宇宙ステーションがあり、あなたがそこに招かれたとする。見ず知らずの宇宙人から「あなたはどこから来ましたか?」という問いかけに、どう答えるか――そんな SF めいた設定で始まる本書は、歴とした科学啓蒙書である。著者は、車椅子の天才科学者スティーヴン・ホーキング博士に師事した高水裕一さん。専門は宇宙論で、近年は機械学習を用いた医学物理学の研究にも取り組んでいる。 冒頭の質問だが、「地球という惑星から来ました」では答えにならない。高水さんは、「海外で初対面の相手にどこから来たのかを聞かれて、いきなり「○○県から来ました!」と答えるようなもの」(16 ページ)と指摘する。ごもっとも。 自分が住んでいる惑星から見た星座の形を描くことができる立体星座カタログや、太陽が実は緑色であること(星のスペクトル分類図)、元素の周期表といった普遍的な原理をベースに宇宙人とコミュニケーションすることができるのではないか――。 話は、4 つの力(強い力、弱い力、電磁気力、重力)と量子重力理論から、ダークマターやダークエネルギーに入っていく。20 世紀後半になってから発見された知見を、できる限り数式を使わず、たとえ話を交えて解説してくれる。量子力学が多くの科学者の合作である一方、相対性理論はアインシュタインが単独で構築したという下りは、『宇宙は「もつれ」でできている』(ルイーザ・ギルダー,2016 年)が詳しい。 1964 年に発見された宇宙背景輻射は、英語で CMB(Cosmic Microwave Background)と略されることが書かれているが、これは私の勝手な推測だが、聖書に登場する東方の三博士(Casper、Melchior、Balthasar)に掛けているのではないだろうか。漫画『C.M.B. 森羅博物館の事件目録』(加藤元浩,2005~2020 年)を思い出し、宇宙論というのは謎解きの要素が詰まっていると、あらためて感じた。 第8章は生物進化の話題――高水さんは専門外とは言いつつ、回転対称のような形や、ウニやヒトデのように放射相称だった生物が、カンブリア紀の大爆発以降に前後ができ、左右対象となり、脊椎動物では感覚情報の入力の左右と、出力の左右とが交差するような神経系になっている経緯を、仮説を交えながら解説していく。 第9章は数学だ――数の単位、自然数、素数、単位元、逆元、ゼロ、整数、有理数、実数、複素数、群、環、体、完備化、代数閉包、四元数、八元数‥‥分からなければ、数学の参考書をひっくり返してみよう。 最後に高水さんはマックス・プランクの言葉を引用する――科学は自然の神秘を解き明かすことではない。なぜなら私たち自身が自然の一部であり、解き明かそうとする神秘の一部なのだから。(260 ページ) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.10.24 11:44:58
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