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2021.11.19
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カテゴリ:書籍
日本史サイエンス

日本史サイエンス

 日本人が陥りがちな、枝葉のことにとらわれて全体を見失う、つまり目的と手段とが乖離してしまうという問題を克服するためには、本書で試みたように数字を手がかりに、リアルな感触を大切にしながら歴史を見なおすことは思考のレッスンとしても有効な気がしています。(235ページ)
著者・編者播田安弘=著
出版情報講談社
出版年月2020年9月発行

三井造船で艦船の設計を担当してきた播田安弘さんが、技術者の目で日本史の「通説」を読み直してみるというところに興味を惹かれ、読んでみた。
本書では次の 3 つのテーマを扱う。
+蒙古軍はなぜ一夜で撤退したのか
+秀吉の大返しはなぜ成功したのか
+戦艦大和は無用の長物だったのか
具体的なデータと物理法則の組み合わせによるシミュレーションで、1274 年の文永の役、1582 年の秀吉の大返し、1945 年の戦艦大和の沈没の実像をリアルにシミュレーションしていく。
そして、「終章 歴史は繰り返される」の中で、播田さんは現代日本の「リアリティの欠如、目的のために最適化されない手段という問題」(232 ページ)を取り上げる。
核兵器、原子力発電、地球温暖化、医療問題、新型コロナウイルス‥‥21 世紀を生きる我々は、様々な社会問題に直面している。こうした問題に取り組むとき、問題に反対することが目的になっていやしないだろうか。問題を要素に分解し、その 1 つ 1 つに対して具体的データと論理的思考をもって対策を考えていかなければ、解決できるものも解決できなくなってしまう。
問題解決に当たる心は熱く、頭は冷静にありたいものである。

播田さんは、第1章で「蒙古軍はなぜ一夜で撤退したのか」という謎について、カレンダーから当時の気象条件や海流を想定しながら、蒙古船を設計。必要な材料や兵員、軍馬、兵糧の量をシミュレーション。通説とされているモンゴル軍の上陸地点を見直し、さらには撤退の謎を解く仮説を提示する。
従来の歴史解説書にはない、データとシミュレーションに基づく播田仮説は説得力がある。もちろん、これは「仮説」であり、御本人が記しているように、歴史家の間で議論する新たな材料になればいいと思う。

第2章は「秀吉の大返しはなぜ成功したのか」という謎解きだ。本能寺の変を聞いた秀吉が、明智光秀を討つため、岡山から京都までの約 220km を、2 万人の兵士を伴い、わずか 8 日間で取って返したという奇跡的な機動作戦のことだ。
播田さんは、この謎についても、地形や距離、運搬すべき装備や兵糧。そして、兵士や馬が排泄する糞尿も計算に入れ、通説と異なり、秀吉の緻密な計略があったことを仮説として提示する。
墨俣一夜城の逸話が伝わっているように、豊臣秀吉という武将は、たしかに戦術においては天才だったかもしれない。それでも当時の技術力には限界があるし、ましてや時間と距離という物理的に動かしがたい数字を前にして、できることには限りがある。播田さんが言うように、「リスク」という概念がなかった当時において、リスクマネジメントに優れた人物であったのだろう。
当時も現代も、科学的に物事を考え、綿密なリスクマネジメントを行う者がリーダーの資質と言えそうだ。

第3章は「戦艦大和は無用の長物だったのか」という通説を紐解く。
まず、「大艦巨砲主義」は戦後に作られた間違った認識であることを指摘する。たとえば、太平洋戦争中、アメリカは戦艦を 12隻建造したが、日本は大和と武蔵の 2隻だけだった。遡り、1922 年、日本は世界に先駆けて空母「鳳翔」を完成させ、海軍航空隊を設立したこと。真珠湾とマレー沖海戦での勝利により、戦艦は航空機に勝てないことを証明してみせた。
そして、戦艦大和の運用の失敗は軍の問題であること。大和の技術は、戦後の造船業・鉄鋼業の興隆、ニコンやキヤノンといった精密機器産業の発展に貢献したことなど、設計・製造技術に光を当てている。

会社で、時々、昭和時代の手書きの設計書を「発掘」することがある。
手書きだろうが CAD だろうがステートメントシートだろうが、そこから設計者の思想が読み取れるドキュメントは教育資料として保管する価値がある。
モノ・サービスをつくる技術者は、常に目的を明確化し、それを達成する手段を具体化しうなければならない、と再認識した。






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最終更新日  2021.11.19 12:29:36
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