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2022/12/24(土)12:23

【エントロピー増大の法則への処方箋】新版 動的平衡

書籍(888)

新版 動的平衡 動的平衡ゆえに生命はこの地球上に出現して以来、38億年の長きにわたって連綿と存続してきた。動的平衡とは、“生命が変わらないために変わり続けている”ことでもある。その意味で、動的平衡はある種の有機的組織論とも言える。(316ページ)著者・編者福岡伸一=著出版情報小学館出版年月2017年5月発行著者は、分子生物学が専門の福岡伸一さん。「生命とは何か」という生命科学最大の問いに対する研究を続けており、一般向けの啓蒙書を多く執筆している。本書は以前読んだことがあるが、『生物と無生物のあいだ』は65万部を超えるベストセラーとなった。NHKの『最後の講義 生物学者 福岡伸一』を見て、あらためて読み直してみた。「生命とは何か」という問いに対して、DNAの世紀だった二十世紀的な見方を採用すれば「生命とは自己複製可能なシステムである」との答えが得られる(258ページ)。だが、この定義には、生命が持つもう一つの極めて重要な特性がうまく反映されていない。それは、生命が「可変的でありながらサスティナブル(永続的)なシステムである」という古くて新しい視点である(258ページ)。生命はエントロピー増大の法則に適応するため、自らを壊し、不可避的に自らの内部に蓄積される乱雑さを外部に捨て、そして外部から材料を取り込んで自らを再構築するという戦略を選んだ。これこそが、福岡さんが提唱し、本書のタイトルにもなっている動的平衡だ。合成と分解、酸化と還元、切断と結合など相矛盾する逆反応が絶えず繰り返されることによって、秩序が維持され、更新されてゆく(316ページ)。動的平衡は、1930年代にルドルフ・シェーンハイマーが提唱した考えを引き継いでいる。ヒトの身体を構成している分子は次々と代謝され、新しい分子と入れ替わっている。それは脳細胞といえども例外ではない(36ページ)。記憶は生体分子ではなく、シナプスという構造によっている。また、新陳代謝速度が加齢とともに確実に遅くなる(46ページ)ことから、われわれは歳をとるほど時間が早く過ぎるように感じるという。You are what you ate.(汝とは、汝の食べた物そのものである)(66ページ)という西洋の諺がある。われわれ生物は、口に入れた食物をいったん粉々に分解することによって、そこに内包されていた他者の情報を解体する(72ページ)という消化を行う。たとえば、コラーゲンをたくさん食べても、そのまま肌の構築材料に使われるわけではなく、いったんアミノ酸に分解されてしまう。また、コラーゲンが皮膚から吸収されることはありえない。分子生物学者の福岡さんは、「『コラーゲン配合』と言われても『だから、どうしたの?』としか応えようがない」(85ページ)という。福岡さんによれば、「『身体にいい』食べ物とは、必須アミノ酸をバランスよく含んでいる食材」(90ページ)であり、その代表選手が鶏卵だ。一方、トウモロコシはトリプトファンという必須アミノ酸がほとんどない。分子生物学的に考えると、ダイエットの基本は、インシュリンが大量放出されないよう、「だましだまし」食べる(113ページ)ことだという。余剰カロリーを消費する運動は現代人にとってかなり厳しいものなので、まずはインプットを減らそうという、科学的でお気楽な方法である。なお、栄養素のうち、タンパク質は貯蔵ができないので、1日あたり60グラムのタンパク質を平均して摂取することが大切だという。ヒトゲノム計画のおかげで、ヒトの細胞で働いている遺伝子が約2万個あることが分かった。ヒトは2万種類のパーツからできているということになるが、福岡さんによれば、単に2万種のパーツを組み立てた機械ではないダイナミズムがあるという。つまり、時間に沿って、これらの部品の相互作用が起きることが「生命」であるという。福岡さんは、これを、「生命の持つ柔らかさ、可変性、そして全体としてのバランスを保つ機能――それを、私は『動的平衡』と呼びたい」(176ページ)という。病原体は、原則として種の壁を越えて感染することはない。宿主の細胞に取り付いて、細胞の内部に入るための扉の鍵は、種によって違うものになるからだ。同様に、種の壁を越えて生殖を行うことはできない。精子が卵子の内部に入るためにも合鍵が必要になるからだ。だが、ウイルスは種の壁を越えて感染することがある。そして、独自のDNAをもつ細胞内小器官の葉緑体やミトコンドリアは、かつて別の微生物だったものが細胞に取り込まれたと考えられている。「ミトコンドリアの細胞共生説」を唱えたのは、ボストン大学の女性科学者リン・マーギュリスだった。彼女は天文学者カール・セーガンの妻(のちに離婚)だが、カール・セーガンがSF小説を書いたり、NASAの惑星探査計画で宇宙人にメッセージを届けようとしたり、異端の科学者であったことが影響したのか、彼女の学説も異端扱いされた。「ミトコンドリア・イブ」が取り上げられ、小説『パラサイト・イヴ』が出版されるなど、いまではミトコンドリアの細胞共生は定説になっている。2016年のノーベル生理学・医学賞は、大隅良典氏のオートファジー研究に対する貢献に対して授与された。オートファジーとは自食作用のことだが、これも動的平衡のメカニズムの1つだ。2016年のノーベル生理学・医学賞は、大隅良典氏のオートファジー研究に対する貢献に対して授与された。オートファジーとは自食作用のことだが、これも動的平衡のメカニズムの1つだ。生命とは何か――高校の生物で習ったのは自己複製であった。エネルギー代謝や構造を加える場合もある。大学へ進学し、人工知能研究として出会った言語 Prolog は、学習データを自らのプログラムに取り込み増殖、自己複製することができる。電気エネルギーを情報に変換して蓄えることができる。もちろんプログラミング言語としての構造を備えている。では、Prologは生物であるか――否。本書で福岡さんは、生命が「可変的でありながらサスティナブル(永続的)なシステム」であると唱える。これは今までになかった視点だ。生命を構成する分子は、エントロピーの増大に適応するため、次々と代謝され、新しい分子と入れ替わっている。Prologには、こうしたサスティナブルな仕組みは備わっていない。プログラムが1行でも、1バイトでもエラーを起こせば、システム全体に不調を来す。また、分子生物学者の視点から、怪しげなダイエットやサプリメントを切って捨てる。1日あたり60グラムのタンパク質を平均して摂取することが、生き続けるのに必要なことだという。

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