6640746 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

プロフィール

パパぱふぅ

パパぱふぅ

キーワードサーチ

▼キーワード検索

フリーページ

カテゴリ

バックナンバー

2025.01.15
XML
カテゴリ:書籍


猛毒のプリズン

猛毒のプリズン

 天久鷹央「全く論理的じゃないな。医師としても科学者としても失格だ。ただし……召使いとしては百点の答えだな」
著者・編者知念実希人=著
出版情報実業之日本社
出版年月2024年10月発行

「せっかくの連休なのに、こんな山奥に来ることになるなんて‥‥」――天医会 (てんいかい) 総合病院統括診断部の小鳥遊優 (たかなし ゆう) は、9月後半のシルバーウィーク、年下の上司で部長の天久鷹央 (あめく たかお) 、研修医の鴻ノ池舞 (こうのいけ まい) を乗せて、長野県の山奥を車で進んでいた。
目的地の2階建ての洋館に到着し、広い庭には野菜や山菜が植えられているのが目に入った。執事の長谷川が出迎え、鷹央の大学時代の同級生、九頭龍燐火 (くずりゅう りんか) が2階から降りてきた。すらりとした長身と整った顔立ちに、優はだらしなく鼻の下を伸ばしたのだが、残念なことに、燐火は九頭龍家当主でコンピューター工学の天才、医療機器を開発、販売している九頭龍ラボラトリーズの会長、零心朗 (れいしろう) の妻だった。燐火はピースサインをしながら、「あらためまして、鷹央の元カノの九頭龍燐火、旧姓、佐々木燐火です」と自己紹介する。
零心朗は、半年ほど前に交通事故で重傷を負い、いまは植物状態だという。燐火は、これが事故ではなく、零心朗を殺そうとした犯人を突き止めてほしいという。事故を起こしたときのドライブレコーダーには、零心朗がサイドに「黄色い‥‥」とつぶやいた音声が残っていた。メイドで介護士の資格をもつ辻堂桃乃 (つじどう ももの) と医療支援ロボット「キュアアイ」が、2階で寝たきりの零心朗の世話をしていた。
零心朗は前妻との間に3人の子どもがおり、その3人全員に命を狙われていたらしい。そして、「もし自分が死ぬか、または意思決定ができない事態になったら、容疑者をこの屋敷に集めた上で、天久鷹央を呼んでくれ。彼女なら誰が私を殺したのかきっと暴いてくれるはずだ」と言い残していた。

ディナーには、顧問弁護士の法川 (のりかわ) と、長男で循環器内科専門医の壱樹 (いつき) 、長女で植物学者の双葉 (ふたば) 、次男で九頭竜ラボラトリーズの技術開発部長の参士 (さんじ) が同席した。食事の間中、3人の子どもたちは、自分たちより年下の燐火に向かって敵意をむき出しにしていた。食事が終わると、法川は零心朗の遺言書を読み上げた。遺書には、もし病死以外の原因で死亡し、相続人の中に犯人がいることがわかったら、その者が受け取るはずだった財産を医療支援ロボットの開発費用に充てるという但し書きが付いていた。そして、もし鷹央が依頼を断ったら、全財産を慈善団体に寄付するという。燐火は、操作の報酬として零心朗の高級酒のコレクションを鷹央に提供するという。鷹央は取り引きに応じた。

桃乃は悲鳴を上げた。零心朗の太ももにメスが突き刺さっており、大量の血液がシーツを赤く濡らしていたからだ。キュアアイのアームに血液がべったりとついていた。キュアアイの開発責任ででもある参士は、人を傷つけるという命令は拒否するだろうが、「うまくプログラムの隙をつけば、患者を怪我させることは可能かもしれない」と語る。警察を呼ぼうとする法川に、壱樹は待ったをかける。九頭竜ラボラトリーズの信用を落とさぬよう、事故として扱おうという。結局、キュアアイを食料庫に閉じ込めた。

朝食を作ろうと専属料理人の味元 (あじもと) が食料庫へ向かうと、キュアアイは破壊され無惨な姿をさらしていた。
「問題は、犯人がなぜあのロボットを破壊したかだな」と鷹央は言うと、屋敷の内側、外側をくまなく検分した。九頭龍夫婦の寝室には大きな本棚があり、鷹央は燐火が神経内科医を目指していたことを思い出す。零心朗の研究室には大量のモニターが並び、コンピュータ室にはスーパーコンピュータが設置されていた。
昼食後しばらくして、零心朗のバイタルモニタがけたたましい警報音を鳴らした。零心朗は心肺停止状態に陥った。隣火は「蘇生措置を行ってください」と悲痛な声で助けを求め、優は蘇生措置を続けた。鷹央は「なるほどな」とつぶやき、透明な液体を静注した。すると、心拍が元に戻った。
鷹央は自らの推理を開陳し、「『オリエント急行殺人事件』と同じだ。常識や思い込みにとらわれていると、その盲点に存在する意外な真実に気づくことができないんだよ」と言った。長谷川が脳波を測定するアタッチメントを零心朗の頭に巻くと‥‥。
「これで事件は一件落着だな」鷹央の満足げな声が部屋に響き渡った。「というわけで、今夜は報酬として九頭龍零心朗の秘蔵の酒を片っ端からいただくとするか。文句はないよな」
法川は、零心朗から燐火に宛てたメッセージを読み上げた。固く閉じた燐火の瞳から、水晶のように美しい涙がこぼれ、重ねあった零心朗と燐火の手に落ちたのだった。

事件が一件落着し、盛大なディナーが終わりに近づいた頃、再びアラームの音が聞こえてきた。零心朗の部屋に入った優は蘇生措置をはじめようとするが、すでに死後硬直が始まっていた。気管内チューブの接続が外れ、零心朗は窒息死した。
3人の子どもたちは食料庫に監禁されている。鷹央は、カレースパイスを捜すために単独行動した自分にアリバイがなく、最大の容疑者だと宣言する。
燐火は鷹央に救いの手を差し伸べる――遺産を使って病院を作り、鷹央の才能を存分に活かせる専門病院にしようと持ちかけた。だが、鷹央は「その取引を受け入れたら、警察の尋問で壊される前に私は私でなくなってしまう」といって拒絶する。
鷹央は、映像記憶という、一度見た光景を写真のように頭の中で再生し、それを見直せる特殊能力を持っている。そして、優と舞を加えた3人は、さまざまな仮説を出し合い、潰していった。シャーロック・ホームズが「全ての不可能を除外して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる」と言ったように‥‥。そして、鷹央は「分かった!」と大きな声を上げ、満面の笑みを浮かべて、こう言った――「お前たちは最高だ。やはり私の居場所は、お前たちがいる統括診断部以外にない」。
朝になり、食料庫に閉じ込められている3人を除く全員を集めると、鷹央は「さて、皆さん。お集まりいただいたことに感謝する」と前置きをして、謎解きをはじめるのだった‥‥。

医師で作家知念実希人 (ちねん みきと) さんによる天久鷹央シリーズ最新作。
1冊1つの長編なのだが、第2章の見出しを見て、「あれ?」と疑問を感じるはず。見出しが本筋と噛み合わない‥‥その理由は第3章の直前に解るのだが‥‥えー、全体の7割が進捗しているのに~、の大どんでん返しを食らうことに。

まず、第一事件の実行犯としてロボットが浮かび上がる。血まみれの医療支援ロボットを弁護するかのように「ロボット三原則」を語り始める鷹央先生――アシモフ・ファンだったのか? 実際、アシモフのSF『鋼鉄都市』で起きた殺人事件ではロボットが重要な役割を演じる。本作をお読みになった方にお勧めしたい。
アイザック・アシモフといえば、SFだけでなくミステリー小説も書いている。中でも「黒後家蜘蛛の会」シリーズは、殺人もアクションもなく、ただただ謎解きに徹しているところが美味しい。そして、R・ダニール・オリヴォーを彷彿とさせる探偵役のヘンリー――こちらもお勧めの推理小説だ。

さて、鷹央先生は、よく、シャーロック・ホームズの「全ての不可能を除外して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる」という台詞を引用する。30年ほど前、ホーキング博士が来日した際、私は質問を投げかけた。すると、ほぼノータイムでボイスシンセサイザーから答えが返ってきた。マジかよ――私は、ビデオ編集でタイムラグをなくして見せているものだとばかり思い込んでいた。アシモフの作品やシャーロック・ホームズを全て読んでいたものの、「全ての不可能を除外する」には、まだまだ知識も経験も足りなかった私‥‥。

あれから30年。身の回りはすっかりデジタル化し、本作品もスマホで読んでいる。だがしかし、ChatGPT先生に「全ての不可能を除外する」プロンプトを打ち込むのは、なかなかに難しい‥‥。
2025年1月からテレビアニメが始まるとのこと。いまから楽しみだ。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2025.01.15 12:10:06
コメント(0) | コメントを書く



© Rakuten Group, Inc.
X