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2025.02.05
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カテゴリ:書籍
ミネルヴァ計画

ミネルヴァ計画

 ミルドレッド「競争がやる気を生み出すのだとされています。……まあ、もちろんそれは事実です。でも、それがすべてではないでしょう? もっと深く、もっと遠くまで届く何かがあるはずなんです……」
著者・編者ジェイムズ・P・ホーガン=著
出版情報東京創元社
出版年月2024年12月発行

かつてNASAの本拠地の1つだったゴダード・センターにある国連宇宙軍(UNSA)先進科学局から数マイル離れたバーでくつろいでいるヴィクター・ハント博士に惑星外からの電話が入った。相手はハント博士で、「そちらはどの時点なんだ?」と聞いてきた。電話は間もなく切れてしまった。
クリスチャン・ダンチェッカー教授は困惑していた。突然変異はランダムなものではなく、環境から受け取る合図によって引き起こされるという実験結果が得られたからだ。
ハントは、オーウェンの退職祝いの席上で、異なる世界線からかかってきた電話のことを公表した。グレッグ・コールドウェルはマルチヴァース間通信の調査プロジェクト〈トラムライン〉のメンバーとして、ハント、ダンチェッカー、ハントの助手ダンカン・ワット、ダンチェッカーの助手サンディ・ホームズの4人を指名。そこにドイツ人のヨーゼフ・ゾンネブラントと中国人理論家マダム・シーアン・チェンが加わり、一行は宇宙船〈イシュタル〉号に乗ってテューリアンへ旅立った。ダンチェッカーの従姉妹で作家のミルドレッドは、取材のために〈イシュタル〉号に乗ることが決まっていた。

ハントが惑星テューリアンに到着すると、ミルドレッドから通話が入った。ダンチェッカーと3人でヴィザーの宇宙のツアーに出かけるという約束の話をしたが、ハントはそんな約束をした覚えはなかった。ハントは2人の都合に合わせてツアーに参加し、〈シャピアロン〉号の司令官だったガルースやシローヒンたちとマルチヴァースについて議論した。ツアーの最後に、ミルドレッドはマルチヴァース全体にあるすべてのヴィザーを連携するアイデアを披露する。ハントは驚いた。彼自身にもそんな発想はなかったからだ。
ゾンネブラントもまた、ハントと同じ違和感を覚えていた。どうやら、何らかの影響を受けているのはハントやゾンネブラントだけではないが、まったく影響を受けていない人もいるようだ。
地球の権力者を「極めて合理的な実利主義者ではありますし、あらゆる面で“効率”を追求することに関してはとても優秀でしょう。でも、健全で正常な文化の基盤となるべき人間の価値というものに対する情緒的能力や感受性が欠如しているんです」と言うミルドレッドの考え方を、テューリアンの高官フレヌア・ショウムは高く評価し、彼女と心を通じ合わせる。
一方、ハントたちの混乱は深刻だった。サンディが持っているサイン帳と同じものが3冊も出てきた。ヴィザーの調査によると、彼ら全員が共有して生活しているこの現実には、少なくとも4つの異なる過去の宇宙から来た人たちが含まれていることが明らかになったからだ。
惑星テューリアンにいるハントのもとへ、地球のFBI捜査官を名乗るポークから電話がかかってきた。コールドウェルの秘書ミッツィは「まあ、FBIですから」と言うが、ハントには何が起きているのか分からなかった。
間もなく、惑星テューリアンの裏側、およそ10万マイルの領域に、そこに存在しないはずのものが突然あらわれ、突然消えていった。さらに、MP2から届くデータストリームを再現しているヴィザーによって、ハントは、2人のイージアンやダンチェッカー、そして、もう1人の自分自身に出会う。そしてついに、別の宇宙の少し過去への通信に成功する。

ショウムは、テューリアンと地球人の考え方の違いについて思索をめぐらしていた。テューリアンは生命をつかさどるプログラムは惑星上で生まれたわけではないと知っているが、地球人はその逆だ。地球人は、自らの内なる性質を見ているものに投影し、その後で、自分が見ているものが外的な現実であると勝手に納得する。それは、かつてガニメアンが地球人に与えたトラウマの産物ではないだろうかと疑念が湧いてくる。
ショウムはカラザーと対話し、事実を大切にするテューリアン人らしく、マルチヴァース・プロジェクトの成功によって、ブローヒリオとジェヴレン人が来訪する前のルナリアンがどんな人たちだったかを確認することができると言う。
カラザーは悩んだ。実験は彼の管理を離れ、地球人が主導権を握りつつあったからだ。テューリアン人にとって、それは受け入れがたいことだった。

テューリアンと地球人によるプロジェクト・チームは、シャピアロン号に人を乗せて5万年前に転移させる準備を整えた。ハントたちは、マルチヴァースの中でミネルヴァが救われる過去を生み出したかった。
一方、時空の混乱を生き残ったイマレス・ブローヒリオとジェヴレン船団は、5万年前の惑星ミネルヴァの近くに現れた。ミネルヴァの人類はセリオスとランビアの二大勢力に分かれて対立していたが、まだ戦争状態にはなかった。ブローヒリオたちは、フレスケル?ガルらランビアの強硬派に接触する。
フレスケル?ガルが王位を簒奪しセリオスとの戦端が開かれた時代にシャピアロン号が到着し、ランビア人ジセックから状況を聞き出す。シャピアロン号はさらに時間を遡り、ジェヴレン船団が存在しないはずのミネルヴァに到着した。だが、ハントの前に現れた映像は、明らかにブローヒリオだった。セリオスとランビアの最終戦争を止めるどころか、シャピアロン号と元の宇宙を結ぶリンクがリンクが切れてしまう。ハント、ダンチェッカー、ガルースは、それぞれが孤立して絶体絶命の状況だったが‥‥。

アーサー・C・クラーク『2001年宇宙の旅』への不満から、DECのセールスマンをしながら『星を継ぐもの』を書き上げ、月面からモノリスというワケワカラン物体ではなく、5万年前の〈人間〉を発掘してみせた。まるでアルゴリズムで記述されているような明快で合理的なストーリーの『巨人たちの星』シリーズは、4作目の『内なる宇宙』でAIが普及した未来を予測する。さらにブローヒリオという最後のフラグを、本作で回収してみせる。
全作品を通じての主人公であり、まるでE.E.スミスのSFに出てきそうな物理学者のハントは、本作では、アーティ・ストラングが提示した莫大な出演料を断ったり、財務不正捜査課のポーク捜査官からしつように電話がかかってきて辟易としたり、物質的合理性の先にある〈何か〉を予言しているように感じた。

ダンチェッカーの従姉妹でバリバリ文系女子のミルドレッドがハントに「ラジオのチューニングに少し似ていますね」と言う下りで、ホーガンが描くマルチヴァースが分かったような気がする。波長が異なる電磁波は同時に同じ場所に存在できる。本書では触れていないが、振動数が異なる超ひもが同時に同じ場所に存在できるということではないだろうか。そして、別の宇宙のハントやダンチェッカーが現れた状況を「支離滅裂」と訳しているが、原語は incoherent――科学用語としては、波長が互いに干渉できない状況を指す。この言葉をもってきたホーガンは慧眼だが、それを「支離滅裂」と訳した内田昌之さんは流石である。

そして、第1部の後半でテューリアン人フレヌア・ショウムと地球人女性ミルドレッドが対話するところが、本書の核心だと思う。エピローグで、ミルドレッドがウィーンにある書店でのんびりと新作『テューリアン精神』のサインに応じている様子から、ハントに物質的合理性の先にある〈何か〉を与えた真の主人公はミルドレッドではないだろうか。

45年にわたって、楽しみ、考えさせられる作品を届けてくれたJ.P.ホーガンに、あらためてお疲れさまでしたと申し上げたい。
とはいえ、まだ翻訳されていない長編が残っている。東京創元社さんには一踏ん張りしていただき、どうか私が生きているうちに届けてほしい。これが物質的合理性とは関係のない、偽りのない想いである。






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最終更新日  2025.02.05 12:22:40
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