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著者は、ASCII.jpで「ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情」を連載している大原雄介さん。8ビットCPUの時代からパソコンを使っている身としては、黒歴史と呼ぶには懐かしいCPUばかりで、当時を懐かしみながら一気に読んだ。 サブタイトルに「Intel/AMDが振り返りたくない失敗作たち」とあるとおり、前半はIntelのCPU、後半はAMDのCPUが並ぶ。そして最後に、マイナー系 x86 CPUと、次世代Macintoshになり損ねたCPUを取り上げる。 二番手の iAPX 432 は、8086アセンブリを書いているとき、その塩っぱさに辟易としているときに知ったCPUである。型番を見れば割るように、8086/8088は8080の延長線上にあるアーキテクチャなのだ。乗除算命令があるとはいえ、加減算を繰り返しているだけだから遅い。一方の iAPX 432 は、電算機概論で学んだメインフレームの流れを汲む32ビット・アーキテクチャだ。ただし、21世紀の現在も実現できていないCPUレベルでのオブジェクト指向を目指すなど、理想的な機能・仕様を目指したため、1981年に出荷開始されたものの、高い・遅いとの悪評を逃れることができず、1984年に 80286 が登場すると、早々に姿を消した。 1980年代半ばから、CISC 対 RISC が話題になった。インテルがRISCに手を出して作ったのが i860 である。命令を単純化することで、ひたすら実行速度を稼ごうという RISC は、除算命令すら持たずにソフトウェア側に実装を要求する。その点で 1989年に登場した i860 は徹底しており、パイプラインの各ステージの状態をソフトウェアから見ることができる。CPU側で並列処理は一切行わず、ソフトウェア側に丸投げするための仕組みだ。しかし、予測分岐が店宿な時代のことなので、せっかくのパイプラインが全く役に立たず、ハンドアセンブルでも理論値の半分のベンチマークスコアしか出なかった。 2000年代前半、AMDとクロック数争いを続けていたインテルは、第三世代の Pentium 4 として2004年に Prescott を発表する。前世代の Northwood に比べてパイプラインの段数を20から30段へ増やし 5GHzを目指したのだが、膨大なリーク電流と発熱で自作界隈を賑わせた。この煽りで、マルチスレッドを目指した次世代の Tejas もキャンセルとなる。 1997年に、DEC が持っていたRISC「StrongARM」の資産を継承したインテルは、2002年に「XScale」として三度 RISC に挑戦する。今回は、PDAや携帯電話をもターゲットにしていると話題になり、実際に XScale を搭載したPDAが登場した。ところが、携帯電話に押されて PDA 市場が失速。一方の携帯電話は、PCとはまったく異なるビジネスモデルで成り立っており、インテルがそれを理解する間もなく XScale は終焉する。 2001年に登場した Merced は初代「Itanium」である。64ビット・アーキテクチャの本命として設計されたのだが、iAPX 432 の時と同じく、理想を追い求めすぎた。トランジスター数3億2500万、ダイサイズは 300mm2 という化け物になってしまい、配線遅延から、クロック数をあげることができなくなってしまったのだ。加えて、コンパイラの最適化に時間がかかり、Pentium III よりも性能が劣る有様になってしまった。インテルは諦めず設計を一からやり直し、翌年、第2世代「Itanium」の McKinley を発表し、メインフレーム市場に食い込むことに成功した。 お次はAMD――。 1900年代最後の年、「SledgeHammer/ClawHammer」の開発コード名で、K8 アーキテクチャがお披露目された。その理論性能は Pentium 4 はもちろん、ワークステーション向けの Xeon も凌駕するものだった。これに慌てたインテルは Prescott の開発を急ぎ、黒歴史に突入したのは前述の通り。ところが、Hammer シリーズのの進捗状況も思わしくなかった。アーキテクチャの変更と、130nm SOIプロセスへの変更という2つの変更を同時に行ったのが悪手だった。2003年4月になって、ようやく Opteron が発表になる。動作周波数は最大でも 1.8GHz というお寒い状況だったのだが、インテル陣営が Prescott で自滅したため、Opteron と Athlon64 はそこそこ市場を獲得した。 AMD は1996年に1チップCPU「Elan」を発表し、再び組み込み市場に打って出るのだが、2003年に National SeIIliconductor の Geode 部門を事業部ごと買収すると、Elan を廃番にしてしまう。Am29000 の失敗を繰り返したことで、組み込み市場から総スカンを喰らい、素性がいいはずの Geode はまったく売れず、市場から撤退することになる。 21世紀の入った現在も、CPU市場は熾烈な競争を繰り広げている。AMD の悪手を手本にしたのか、Core プロセッサではアーキテクチャとプロセスの変更を互い違いに行うチック・タック戦略をとり、PC市場を占有するまでになったにもかかわらず、その慢心か、AI技術で出遅れ、NVIDIAの資本提携を余儀なくされている。 また心配なのは、複雑になりすぎた CPU/GPU/APU は、常にバグやサイバー攻撃のリスクに晒されているということだ。最近のPCはディープスリープにしても、ある程度の電力が消費される。市場の声が怖いからといって、バグをサイレント修正しているようでは、製造メーカーとして図体が大きいだけで、ガバナンスは創業当時と変わらないのではないだろうか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2025.10.10 12:03:14
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